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②
礼二郎がひどく真剣な顔をしていたせいか、リーマンもウーンと考え込んで思い出すようなポーズをした。
「人身事故って、ちょうど一か月前くらいのやつだね? 確かに居合わせたけど……知らない女性だし、全く心当たりはないな」
「ぶつかった、とか」
「え、まさか君、僕がその人を突き落としたとでも言うのか!? そんなわけないだろう! 僕じゃ無かったら名誉毀損で訴えられるところだよ、キミィ」
「……っ」
礼二郎は、未だ空中で柴犬に足を噛まれている女性をチラッと見上げた。
ひどく悔しそうな表情をしており、今にもリーマンを呪い殺さんばかりの形相だ。
「ヒィッ!?」
やはり霊は怖い。そして、こんなにもずっと視え続けていることが信じられない。
「と、とにかく僕はそんな事故には関係ないからね! 被害者の女性は君の知り合いだったの?」
「いいえ……」
「そうかい、なら君にも関係ないだろう? なんでそんなことを聞くんだ」
「す、みません……」
(ごめん、幽霊さん。俺にはもう……どうすることもできないよ。何も出来なくて、ほんとにごめん……)
礼二郎は心の中で彼女に謝った。身体の自由を奪われて、危うく殺人犯にされそうだったことは綺麗に忘れてしまっている。
『そんなの嫌よ!! 許さない……っ! やっぱり許せない! 急いでたのか知らないけど、アイツがぶつかったせいであたしは線路に落ちたのに、気付いてすらいないなんて! 許せない、許せない……!! 』
「うっ……」
またも、彼女の怒りや悲しみが礼二郎の意識に流れ込んできて、吐き気を催した。
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