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礼二郎がひどく真剣な顔をしていたせいか、リーマンもウーンと考え込んで思い出すようなポーズをした。 「人身事故って、ちょうど一か月前くらいのやつだね? 確かに居合わせたけど……知らない女性だし、全く心当たりはないな」 「ぶつかった、とか」 「え、まさか君、僕がその人を突き落としたとでも言うのか!? そんなわけないだろう! 僕じゃ無かったら名誉毀損で訴えられるところだよ、キミィ」 「……っ」 礼二郎は、未だ空中で柴犬に足を噛まれている女性をチラッと見上げた。 ひどく悔しそうな表情をしており、今にもリーマンを呪い殺さんばかりの形相だ。 「ヒィッ!?」 やはり霊は怖い。そして、こんなにもずっと視え続けていることが信じられない。 「と、とにかく僕はそんな事故には関係ないからね! 被害者の女性は君の知り合いだったの?」 「いいえ……」 「そうかい、なら君にも関係ないだろう? なんでそんなことを聞くんだ」 「す、みません……」 (ごめん、幽霊さん。俺にはもう……どうすることもできないよ。何も出来なくて、ほんとにごめん……) 礼二郎は心の中で彼女に謝った。身体の自由を奪われて、危うく殺人犯にされそうだったことは綺麗に忘れてしまっている。 『そんなの嫌よ!! 許さない……っ! やっぱり許せない! 急いでたのか知らないけど、アイツがぶつかったせいであたしは線路に落ちたのに、気付いてすらいないなんて! 許せない、許せない……!! 』 「うっ……」 またも、彼女の怒りや悲しみが礼二郎の意識に流れ込んできて、吐き気を催した。

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