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③
「槐君、大丈夫?」
「柴、くん……」
柴の手が、優しく礼二郎の額に触れた。
「目を閉じて、何も考えないで、ゆっくりと深呼吸してごらん」
「……うん……」
礼二郎は柴の言う通りにした。すると、吐き気はだんだんと治まってきた。
(柴くんの手、暖かくてきもちい……)
「大体の事情は察したよ。──虎鉄!」
ワンッ
「!?」
(柴くん、さっきも思ったけどやっぱりこのわんちゃんの名前呼んだ? コテツって名前なのか? ていうか――視えてるのか??)
「除霊は中止。その代わり、ソレを槐君からオッサンに移す」
ワフッ
「はぁ? 何を移すって?」
リーマンは怪訝な顔をして柴に聞き返したが、柴はブツブツと何かを唱えたあと、にっこりと笑って言った。
「何でもありません。お憑かれさまでした、どうぞ会社へ行ってください」
「な、なんだよォ……気持ち悪いな、もう。はあ、なんかいきなり肩が凝ったな……」
リーマンはこれ以上礼二郎たちに関わりたくないと思ったのか、駅の階段を降りてそそくさと立ち去った。
彼の背後には、あの女性がぴったりとくっついていた。
「槐君、俺たちはもう少し休憩してから行こう。ていうか大学行ける?」
「多分……」
「無理しなくていいよ」
電車がいくつか到着していたが、まだ乗る気になれず見送った。
ハッハッ
駅のベンチに並んで座った礼二郎と柴の足元で、小さな柴犬が激しく尻尾を振っている。最初は本物の犬かもしれないと思ったが、空中から突然現れたし、半分透けているのでやはり霊で間違いないらしい。
(霊なのに、可愛いな……触りたい)
きっと触っても、指を通り抜けてしまうだろうけど。
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