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 柴は理工学部のある棟へと歩いて行った。柴の姿が見えなくなってから、池永が言った。 「……メガネと前髪で最初は分かんなかったけど、アイツかなりイケメンだったな~……長身だしオシャレだしめっちゃモテそう。類友ってやつ? 礼二郎、いつの間に仲良くなったんだよ」 「お隣さんなんだ。昨夜ゴキ……うっ……を退治してもらったのがきっかけで、仲良くなったばかりだよ」 「え? は? ゴキブリ?? 何お前、自分で殺せないほど苦手なの?ww」    池永は半笑いで礼二郎に聞いた。思いっきり馬鹿にしている顔だ。 「うるさいな、俺にとっては目に入れたくないほどおぞましい存在なんだよ! それに殺虫剤が切れてて死ぬほどピンチだったんだ。だけど柴君が俺の悲鳴を聞いて助けに来てくれて……いやもうほんと、心の底から感謝したよ。柴君は俺の命の恩人だ」 「いやいや、たしかにGはキモいけどそこまでは……ちえりちゃんだって一人暮らしだから見つけた時は自分で殺るっつうのに、お前ってやつは」 「それで友達になったんだ」 「へ~」  仲良くなった理由は他にも色々あるが、言う必要はないので黙っておくことにした。 (あ……)  そういえばすっかり忘れていたが、先ほどキスまでしてしまった仲だ。  礼二郎は思わずそっと自分の唇に触れた。実はファーストキスだった。(女の子とキスしようとしてもことごとく霊に邪魔されたため) (まああれはキスっていうか、柴くんにとっては人工呼吸みたいなものか?)  自分にとっては特別というか……初めてのキスだが、柴にとっては単なる人助けというか、応急処置のようなものに過ぎないのだろう。今まで人助けのために何度も同じことをしてきたのかもしれない。 礼二郎は自分もその内の一人にすぎないのだと思うと、少し複雑だった。何故こんな気持ちになるのもよく分からない。 (柴君の唇、すごく柔らかかったな……)  直接口づけられて、柴の《霊力》を吹き込まれた瞬間。  なんだかとても、気持ち良かった。

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