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「ひうっ……!」 恐怖で喉から短い悲鳴が漏れた。近くに居た数人が礼二郎の声に気付いて振り向く。 「あー礼二郎君だ。今日もカッコいいね♡ ていうか、そんなところに突っ立ってどうしたのー?」 「顔真っ青だよ、どこか具合が悪い~?」 顔見知りの女子たちが、礼二郎を見て心配してくれた。カッコイイと言われていつもは『こんなの通常だよ』などと調子に乗るのに、恐怖でそんな気すら起こらない。 「いや……あの……っ」 返事に戸惑っていたら、すぐに池永が戻ってきた。 「礼二郎、やっぱり体調悪いのか? 今日は無理すんなって、代返しといてやるから家に帰れよ」 「か、帰るっていっても……」 一人じゃ帰れない。 というか、怖くて動けない。 「お前……マジで大丈夫か? 顔真っ青だぞ。もしかして救急車呼んだ方がいいやつか?」 「まじ? 救急車って119番だっけ」 「いっ、いい! 大丈夫、大丈夫だから!」 「大丈夫って顔色じゃねぇぞ」 池永と礼二郎のやり取りに講義室がザワつく。沢山の視線が礼二郎に刺さる。しかしそれは生きている人間のものだけではない。 『あいつ、視えてるぞ』 『視えてるな』 『おーい』 『おーい』 『おーい』 『こっちも視てくれー』 『おーい』 (見るな、俺を呼ぶな……! こわい、こわいよぉ……っ) 「池永ぁ、礼二郎ちゃん今日はどしたん~?」 「いや、それが体調悪いみたいで……帰れっつってんだけど、動かないんだよ」 「まじ? 礼二郎だいじょぶか?」 (こわい……柴君、助けて、柴君……っ)  友人たちが心配してくれているのに、霊の声が混じっていて怖くて顔が上げられない。顔を上げたらきっとそこには……  ワンッ!! 「!?」 唐突な犬の鳴き声に、礼二郎は俯いていた顔を上げた。心配そうな顔をした池永の頭の上に、何故か虎鉄がご機嫌な顔で乗っていた。

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