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②
「ひうっ……!」
恐怖で喉から短い悲鳴が漏れた。近くに居た数人が礼二郎の声に気付いて振り向く。
「あー礼二郎君だ。今日もカッコいいね♡ ていうか、そんなところに突っ立ってどうしたのー?」
「顔真っ青だよ、どこか具合が悪い~?」
顔見知りの女子たちが、礼二郎を見て心配してくれた。カッコイイと言われていつもは『こんなの通常だよ』などと調子に乗るのに、恐怖でそんな気すら起こらない。
「いや……あの……っ」
返事に戸惑っていたら、すぐに池永が戻ってきた。
「礼二郎、やっぱり体調悪いのか? 今日は無理すんなって、代返しといてやるから家に帰れよ」
「か、帰るっていっても……」
一人じゃ帰れない。
というか、怖くて動けない。
「お前……マジで大丈夫か? 顔真っ青だぞ。もしかして救急車呼んだ方がいいやつか?」
「まじ? 救急車って119番だっけ」
「いっ、いい! 大丈夫、大丈夫だから!」
「大丈夫って顔色じゃねぇぞ」
池永と礼二郎のやり取りに講義室がザワつく。沢山の視線が礼二郎に刺さる。しかしそれは生きている人間のものだけではない。
『あいつ、視えてるぞ』
『視えてるな』
『おーい』
『おーい』
『おーい』
『こっちも視てくれー』
『おーい』
(見るな、俺を呼ぶな……! こわい、こわいよぉ……っ)
「池永ぁ、礼二郎ちゃん今日はどしたん~?」
「いや、それが体調悪いみたいで……帰れっつってんだけど、動かないんだよ」
「まじ? 礼二郎だいじょぶか?」
(こわい……柴君、助けて、柴君……っ)
友人たちが心配してくれているのに、霊の声が混じっていて怖くて顔が上げられない。顔を上げたらきっとそこには……
ワンッ!!
「!?」
唐突な犬の鳴き声に、礼二郎は俯いていた顔を上げた。心配そうな顔をした池永の頭の上に、何故か虎鉄がご機嫌な顔で乗っていた。
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