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「こてっ……ちゃん……」 「え、何?」 ハッ! (ヤバ、他の奴には視えないんだった!) 虎鉄は池永の頭を蹴って飛び上がり、礼二郎のそばの机の上に音もなく着地した。嬉しそうに尻尾を振っている。  まるで『大丈夫だよ』と言ってくれているように――。  虎鉄が一鳴きした途端、礼二郎を呼ぶ霊達の声はピタリと止んだ。 「……っ」  礼二郎は安心して、思わず涙が溢れそうになった。 「あ、先生来たよ」 「礼二郎、ほんとに大丈夫か~? 無理そうだったらすぐ言えよな、医務室連れて行ってやるから」 「ん……」 (でも、なんでこてっちゃんが俺に憑いてるんだろう。もしかして、柴君が俺を心配して寄越してくれたのかな……?) ワフンッ  そのとおり、とでも言うように虎鉄が鳴いた。 (そっか……ありがとう) 虎鉄もまぎれもなく礼二郎が苦手な幽霊だというのに、何故かちっとも怖くない。怖いよりも可愛さの方が遥かに勝っているのだ。それと、柴の相棒だからだろうか……。 触れられないのは分かっているが、礼二郎は講義中に何度かこっそりと虎鉄の背中を撫でた。そのたびに池永に『礼二郎、その手はいったい何してんだ?』と突っ込まれたが、なんでもないと誤魔化した。  その日の講義やゼミの活動は、虎鉄のおかげで最後までこなすことができた。

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