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23:謎の彼氏くん①

 授業が終わったあと、礼二郎はなるべく誰とも目を合わさないようにして足早に大学を出た。否、出ようとしたのだが…… 「あれ? こてっちゃん?」  それまでトテトテと礼二郎の後ろを着いて歩いていた虎鉄が、門の内側でピタリと足を止めたのだ。 (ま、まさか大学の外までは一緒に行けないとか……!?)  そのまさかである。礼二郎がさらに一歩前に進んでも、虎鉄はそこに結界があるかのように動かない。 帰宅中の他の学生が、門の前でモタモタと何かをしている礼二郎を怪訝な目で見ながら何人も横を通り過ぎて行く。 (こてっちゃんお願い、俺のバイト先にもついてきて……!!) クウ~ン  虎鉄はまるで人間のように、困った顔でフリフリと首を振った。『それはできない相談です』と言っているようだった。 (なんで!? あ、柴君との距離が離れすぎたらダメってこと!?) ワン!  今度は『ご明察です!』と言っているように明るく一鳴きした。今日ずっと一緒にいたので二人の意思疎通はバッチリである。 「そ、そんなぁ……どうしよう……」 「おーい礼二郎! お前何でさっさと帰るんだよ!」  ガックリ肩を落としたところで、名前を呼ばれた。顔を上げると、キャンパスの方から池永と平尾が小走りで礼二郎の元へと走ってくるところだった。 「池永、平尾……」 「お前今日バイトだろ? しんどいなら俺が変わりに行ってやろうかと思ってさ。まだ仕事覚えてるし」 「え、別に大丈夫だよ。ありがとう」  池永は以前礼二郎と同じコンビニでバイトしていた。今は別の場所でバイトしているが、それがきっかけで仲良くなったという経緯がある。 一瞬その言葉に甘えようかとも思ったが、今は体調がいいので断った。 「でも彼氏に晩メシ作るんだろ? 遅くなっていいのかよ」 「は? ……彼氏?」  彼氏とはいったい誰のことだ。ていうかそもそも、彼氏なんて存在しないのだが。

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