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24:自覚①
(いやいや、そんなバカな……)
しかし冗談でもダーリンと呼んだら、柴はまた笑うだろう。柴は基本ポーカーフェイスだが意外と笑い上戸で、普段は大人っぽいのに笑うと一気に幼くなるのだ。あの顔を礼二郎はまた見たくなった。
(まあ、言わないけど……でも柴君の笑った顔、可愛くて好きなんだよな。池永や平尾が笑ってもそんなことまったく思わないのに……俺、おかしいのかな)
「へー、礼二郎の彼氏は柴って言うのか。聞いたことねぇ名前だけどどこの学部の奴? もしくは先輩?」
「タメっぽかったぞ、理工だって。頭イイ上にすげぇオシャレなイケメンだった……タッパもあるし」
「なんだそのハイスペック男! しかも彼氏が礼二郎? 神様は不平等すぎるな~」
「なー、まあ俺、恋人は女の子がいいけど」
「そりゃそうだ」
柴のことを思い出してつい現実逃避しかけていたが、礼二郎はハッとして二人に言い返した。
「ていうかそもそも付き合ってない! 池永の勘違いだ!」
「え? でも今日晩飯作って待つんだろ?」
「なにそれ礼二郎ちゃん、既に奥さんポジなの!? 付き合うのなんか通り越してるってこと!?」
「違うっつーの! 俺が柴君と話したいことがあるから呼んだだけ!! と、とにかく俺の命の恩人に対して失礼な発言をするな!」
「命の恩人だぁ!?」
礼二郎の大袈裟な物言いに平尾は目を丸くして驚いたが、その耳元で池永が『昨日部屋に出たゴキブリを退治してくれたんだとよ』と囁き女将のごとく、ボソボソ囁いた。
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