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③
しばらくして自動ドアの軽快なチャイムが店内に鳴り響き、一人の男性客が入ってきた。礼二郎はパッと顔を上げて愛想よく「いらっしゃいませ」と言った。――しかし。
「やーだ礼二郎君、お客さんなんて来てないわよォ」
「えっ? でも……」
くたびれた格好の壮年の男性客が一人、迷わずに雑誌コーナーへ向かっていく。しかしよく見れば、その輪郭は微かにぼやけていた。
「……!」
「チャイムの誤作動ですかね~」
「最近多いわね」
(俺にしか視えていない……? ってことは、)
礼二郎は雑コーナーで立ち読みしている男性客をそっと盗み見た。すると男性客はゆっくりと礼二郎の方を振り返り……
(やばい、目が合う!)
ニチャァと笑ったのだが、礼二郎は視なかった。今は虎鉄がいないので、目を合わせたらどうなるか分からない。
ただその霊が自分に笑いかけたのは肌で感じており、顔面蒼白になってガタガタと震えだした。
「礼二郎君どうしたの!? 震えてるわよ、寒いの?」
礼二郎の異変にいち早く気付いた店長夫人が心配してくれた。
「い、いえ……大丈夫です……」
「すごく顔色が悪いわ。もうすぐ上がりだし、今日はお客さんも少ないから裏で休んできてもいいわよ?」
「だ、大丈夫ですから!」
正直言って、死ぬほど怖い。だが午前中の出来事と大学での事も含めて、確実に少しずつ慣れてはきていた。
「礼二郎君無理したらダメだよー! 貧血じゃないの? ご飯ちゃんと食べてるー?」
品出し中だった松本まで礼二郎を心配してレジまで来てくれた。
「わりとしっかり食べてる方だと……」
「そうは言っても、男の子の一人暮らしなんて食生活適当だからなぁ」
「やっぱりもう上がった方がいいわ。店は大丈夫だから」
「……すいません……」
多分、食事は同世代の男よりもちゃんとしたものを食べていると思う。けどそんなことを言い返す余裕はなかった。
(俺、ずっとこんなんじゃ今後マトモに生活できないぞ……どうしたらいいんだ? 霊が視えなくなる方法とかないのかな……?)
それも含めて今夜柴に相談しようと思った。今まで自分ではどうしようもなかったことが相談できるだけ、ありがたい。
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