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 しばらくして自動ドアの軽快なチャイムが店内に鳴り響き、一人の男性客が入ってきた。礼二郎はパッと顔を上げて愛想よく「いらっしゃいませ」と言った。――しかし。 「やーだ礼二郎君、お客さんなんて来てないわよォ」 「えっ? でも……」  くたびれた格好の壮年の男性客が一人、迷わずに雑誌コーナーへ向かっていく。しかしよく見れば、その輪郭は微かにぼやけていた。 「……!」 「チャイムの誤作動ですかね~」 「最近多いわね」 (俺にしか視えていない……? ってことは、)  礼二郎は雑コーナーで立ち読みしている男性客をそっと盗み見た。すると男性客はゆっくりと礼二郎の方を振り返り…… (やばい、目が合う!)  ニチャァと笑ったのだが、礼二郎は視なかった。今は虎鉄がいないので、目を合わせたらどうなるか分からない。  ただその霊が自分に笑いかけたのは肌で感じており、顔面蒼白になってガタガタと震えだした。 「礼二郎君どうしたの!? 震えてるわよ、寒いの?」  礼二郎の異変にいち早く気付いた店長夫人が心配してくれた。 「い、いえ……大丈夫です……」 「すごく顔色が悪いわ。もうすぐ上がりだし、今日はお客さんも少ないから裏で休んできてもいいわよ?」 「だ、大丈夫ですから!」  正直言って、死ぬほど怖い。だが午前中の出来事と大学での事も含めて、確実に少しずつ慣れてはきていた。 「礼二郎君無理したらダメだよー! 貧血じゃないの? ご飯ちゃんと食べてるー?」 品出し中だった松本まで礼二郎を心配してレジまで来てくれた。 「わりとしっかり食べてる方だと……」 「そうは言っても、男の子の一人暮らしなんて食生活適当だからなぁ」 「やっぱりもう上がった方がいいわ。店は大丈夫だから」 「……すいません……」  多分、食事は同世代の男よりもちゃんとしたものを食べていると思う。けどそんなことを言い返す余裕はなかった。 (俺、ずっとこんなんじゃ今後マトモに生活できないぞ……どうしたらいいんだ? 霊が視えなくなる方法とかないのかな……?)  それも含めて今夜柴に相談しようと思った。今まで自分ではどうしようもなかったことが相談できるだけ、ありがたい。

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