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26:決壊①
礼二郎はスーパーでカレーの足りない材料をいくつか買い足し、外に出て空を見上げた。今の時刻は20時過ぎで、厳かな光を放つ半月が雲の切れ間から顔を出している。
(柴君、もう帰ってるかな……とっくに帰ってるよな。お腹を空かせてるかもしれない。招待するのは明日にすればよかった……)
礼二郎は柴に申し訳ないと思いながら、霊に遭遇しませんようにと祈って急ぎ足で夜道を歩く。
マンションの狭いエントランスを通り抜け、エレベーターのボタンを押してぼーっとしていたら、開いたドアの中から柴が現れた。
「……っ、柴君?」
「あ、礼二郎君。――お帰り」
「ど、どこか行くの? ごめん遅くなって。急いでご飯作るから! 30分、いや40分くらいあれば……」
「いや、こっちこそ遅い時間にご飯作ってもらうのはやっぱり申し訳ないなって思って。ちょっと二人分の夕食を買いがてら礼二郎君の迎えに行こうかな、と思ってたんだ」
柴の優しい言葉に、礼二郎は胸の辺りがギュッと苦しくなる。
(柴君は、なんで俺にこんなに優しいんだろう……)
「あれから大丈夫だった? 大学では一応ボディーガード的な感じで虎鉄を憑けてたけど……バイト先では怖い想いしなかった?」
思わず俯いた顔を覗きこむように言われて、その途端、礼二郎はずっと我慢していた感情が溢れた。
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