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「っ……柴君!」 「礼二郎君?」 「柴君、柴くん、しばくん……っっ!!」 じゃがいもや玉ねぎの入った買い物袋がどさりと足元に落ちたが、気にも止めなかった。礼二郎は腕を伸ばして、力いっぱい柴に抱きついた。 「怖かったぁぁぁぁ!! めちゃくちゃ怖かったよぉぉぉ!! 講義室にも幽霊がたくさんいて、俺が視えてるのに気付いて俺の事呼んでて、バイト先にも現れてこっち見て笑ってて、めちゃくちゃ怖かった……!! うっ、うぁぁぁ~!! もうやだぁぁあ~!!!!」 同い年の男に号泣されながら抱きつかれて、柴は心底困っているに違いない。分かっているが、礼二郎は他に頼れる人間を知らない。 自分以外でハッキリと霊が視える人間に、柴以外会ったことがないのだ。しかも柴は除霊を生業にしているのだから、縋らない訳がない。 「怖いのに頑張ったんだね、俺のせいで本当にごめんね」 「うわあぁああん、柴くんんん~!!」 「よしよし、とりあえず俺の部屋行こ?」 礼二郎はハッとした。ここはエントランスだからほかの住人の邪魔になるし、通行人も『何事だ?』という顔でばっちり見ている。  ――それでも涙は簡単には止まらないのだが。 「えぐっ、えぐっ、柴君のへや……?」 「今朝は礼二郎君の部屋に招いて貰ったから、夜はこっちに来て貰おうと思って。軽くだけどいちおう掃除もしておいたよ」 「うぅ……」 礼二郎は手で涙を拭いながらずびっと鼻水を吸いこむと、コクン……と静かに頷いた。

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