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「まさか相棒に嫉妬する日が来るとは思わなかったな……」 「え? 柴君、何か言った?」  礼二郎は柴を見上げた。 「なんでもない。――さあ入って。すぐに楽になるよ」 「楽になる……?」 礼二郎は控えめな声でお邪魔しまぁす、と言いながら自分の部屋と同じ作りの玄関に入った。 その途端、ノイズのようなザアッとした音がして、礼二郎はさっきまでこの世の終わりかのように絶望していた気持ち──普通に霊が視えるようになって、もう今までのような平穏な(?)日常には戻れないのだという──が、いきなり嘘のように楽になった。 「今の何!? っていうか、あれ……?」 「楽になったでしょう?」 「え、も、もしかして……」 「うん、またいっぱい生霊や背後霊を憑けてたねぇ」 「ヒッ」 まったく気付かなかったが、何やらいっぱい憑けていたらしい。再び涙がこぼれそうになったが、なんとか堪えた。 柴の部屋に入った途端に一番に感じたのは、白檀の香りだ。柴はいつもこの香りをさせている。 「ごめんね線香臭くて。虎鉄が好きな香りなんだ」 「ううん。俺もこの香り結構好きだし……落ち着くっていうか、柴君そのものって感じで安心するから」 「ッ……!」  柴は礼二郎に伸ばしかけた手を引っ込めるような動作を見せた。それを見て礼二郎は、自分の行動を省みた。 「あっ、さっきは泣いてごめんな! ずっと抱きついてたし……柴君の服、俺の涙とか……その、色々な液体いっぱい吸っちゃったかもしれない」  主に涙と鼻水と涎だ。 「部屋着だし別にいいよ。部屋着じゃなくても、礼二郎君の体液なら全然構わないし」 「っ、そ、そう……なの?」 「うん」  柴の含みのある言い方に、さすがの礼二郎も何かを感じ取って照れた。

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