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(し、し、したいっ? したいって……死体って……死体ってぇぇぇ!!!!) 「う、うそだぁ……! 嘘って言って……」 怖くて泣きながら言う礼二郎に柴は困った顔をしたが、無情にもハッキリと答えた。 「嘘じゃないよ」 「嘘じゃないのぉ!? ヒィィ……!! し、死体って、あ、ありえな……うぇぇん」 柴は号泣しテンパりまくる礼二郎の両肩にそっと手を置いて、優しく話しかけた。 「礼二郎、よく聞いて。――俺はこのマンションの不動産屋とはちょっとした知り合いなんだ。彼に遺体の第一発見者になってもらう。理由は適当に考えて貰おう、そういうの得意そうだし」 「で、で、でも……っ」  警察を騙してもいいのだろうか。でも二人は実際に死体を見たわけではない。どうして隣に死体があると分かったのか聞かれても、答えられない。 「多分警察が礼二郎のところにも話を聞きに来る。何時頃、何か物音はしなかったかとかそういう質問をすると思う。そこでなんて答えるかは礼二郎に任せるけど、今朝会ったことは黙っておくんだ。霊に会ったなんて言っても信じてもらえないだろうし、信じて貰えたとしても記録には書けないと思うから」 「う、うん……」 「いい? 俺たちは捜査を混乱させないようにするだけだよ。警察を騙すわけじゃないからね」 「わ、わかった……けど、」 「何?」  礼二郎はガタガタ震えて、柴のスウェットをぎゅっと握りしめた。 「こわい……」 「!」  柴は昔から霊が視えているうえに寺の次男なので、人間の遺体には慣れている。というか、肉体は魂の器としか思っていない。 しかし、礼二郎は違う。  霊は視えるが怖がりなうえ、本物の遺体なんか見たことも無いのだ。それが急にお隣にあるなんて言われて、怖くないはずがない。

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