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「……!」 「礼二郎、……」 礼二郎の両目から、ツーっと涙が零れ落ちていた。その姿があまりにも綺麗すぎて、柴も二人の刑事も一瞬言葉を失ったほどだった。 「え、えぇっと……お隣の男性とは知り合いだったの?」 我に返った刑事の質問に、礼二郎は首を振った。 「名前も知らないです。自殺を選んだ理由も分からないけど、でも、なんていうか、かわいそうで……」 ポロポロ、ポロポロと涙が零れ落ちる。いつの間にか足元には虎鉄がいて、慰めるようにスリスリと礼二郎の足にまとわりついていた。感触はないが、気持ちは伝わる。 「君、とっても優しい子なんだね。お隣の男性はブラック企業に勤めていて、ひどく心が疲れてしまっていたみたいなんだ。遺書に色々書かれていたよ。これ以上はちょっと、個人情報だから言えないけど」 「そうですか……」 そんな事情を聞かされたらますます切ない。たとえ顔見知りだったとしても、まだ子供の礼二郎に出来ることなど何もなかっただろうけど。 「ところで君は、柴君と言ったね」 「はい?」 礼二郎と話していた若い刑事の相棒の刑事──礼二郎たちとは、親子くらい年齢が離れていそうだ──が、突然柴に話しかけた。 「君の部屋、過去に何件も人死にがあったみたいだけど……それは承知で入居してるのかい?」 「えっ!?」 礼二郎は驚いて柴の方を振り返った。 「ハイ」 「気味が悪くはないの? 幽霊とか全く信じてないタイプ?」 「まあ……実家は寺ですし、大学は理工学部なんで。非現実的なことはあまり」 柴のいけしゃあしゃあとした回答に、礼二郎は思わず目が点になった。

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