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番外編:柴京介の徒然除霊日記【1】
※某エブリスタさんではスター特典として載せているものです。
京介視点のシリーズになります。
*
「――ほんとにこの部屋除霊したら、次の更新まで家賃一万五千円で住まわせてくれるんですか? 渡邉さん」
俺が確認のために問いかけると、旧知の仲である『ホワイト不動産』の渡邉氏(30)はニコニコと胡散臭い笑みを浮かべながら答えた。
「勿論! 本当はタダでもいいくらいなんだけど、それだと上がちょっと納得してくれなくてねぇ……」
「別にいいですよ、タダより高いものは無いって言いますし」
「事故物件好きからの人気はあるんだけど、全員一週間も持たずに出てくし、自殺も多いからちょっとこれ以上この問題を放置しておくのは会社的にもいけなくてねえ……」
「はあ……確かに霊の数が多いですね」
「やっぱり!?」
少なくとも5体はいる。どいつもこいつも現世に強い恨みを持っているわけでもなさそうだが。
大方、『上がり方』が分からない霊達の溜まり場になっているのだろう。
ウゥ~……
霊の匂いに感付いたのか、相棒の虎鉄が低いうなり声を上げた。
「虎鉄、待て。契約がまだだ」
虎鉄の目は見えないが、鼻で霊の匂いを感じ取ることが出来る。うちで一番優秀な霊体の柴犬――除霊犬だ。
「虎鉄ちゃん、いま吠えてるの?」
「吠えるというか唸ってますね、厄介な霊が何体かいそうです」
「うひぃ」
虎鉄の姿は一般人には見えないし、声も聴こえない。もし視えるとしたら、強めの霊媒体質の人間だけだ。
「──では渡邉さん、書類の準備は出来てますか?」
「出来てまーす。とりあえず一旦ここにサイン下さいな」
「はい。じゃあこれで契約成立ですね。もういいぞ虎鉄。――やれ」
*
「――すっかり綺麗になりましたよ」
俺がそう言って部屋から出てくると、渡邉さんも部屋に入って深呼吸していた。黴臭さは普通に残っているのだが。
「はあ、なんかさっきまでの重苦しい空気がすっかり消え去ったね~! さっすが京介君、仕事が早い! あ、それとも虎鉄ちゃんの力なのかな?」
「まあ俺の力が虎鉄の力なんで、どっちもですね」
除霊師に力がないと、霊犬はほぼ何も出来ない。ただの可愛い柴犬の霊だ。
ちなみに柴家で俺の次に力が強いのは母で、その次に父、兄の順だ。
兄の霊力は雑魚だが、一応次の跡取りになっている。コイツで大丈夫なのかと心配はしてるけど、絶対に変わってはやらない。(兄も糞雑魚のくせに、跡取りの座を俺に譲る気は無いらしい)
「虎鉄ちゃんが本物の犬なら、毎回犬用のおやつも用意しておくのになぁ~残念」
「白檀の匂いが好きなんで、あとで渡邉さんも線香あげといてください」
「は~い」
狭い玄関に小さな線香立てを置いて、経を唱えながら一本の線香にライターで火を点けた。これは除霊の仕上げの意味合いもあるが、俺から虎鉄へのご褒美でもある。
細い煙の方を向いて、虎鉄のくるんとした短い尻尾がパタパタと左右に振れている。
「これで幽霊マンションなんて不名誉な噂が消えるといいんだけどねぇ」
「でも、そういうのが好きな人達には人気な物件なんでしょう?」
「部屋全部が相場よりも安いからね。──あ、でも最近三階の真ん中の部屋に越してきた子は、霊が出る噂とか何も知らないで入居したみたいだったよ」
「へえ……」
相場よりも家賃が安い場合、事故物件じゃないかと疑ったりしないのだろうか。
隣の部屋は別に事故物件じゃあないが、今どきそういうのを調べる方法は幾らでもあるというのに。
「その子さ、めちゃくちゃイケメンだったんだ! 線が細くて、男だけど美人だった! 京介君のどタイプじゃないかな? それに同じ大学だったっぽいよ」
「タイプなのはいいとして、個人情報を簡単に漏らさないで下さいよ」
「おっとすみません、ついミーハー心が」
それに俺は男が好きなんじゃなくて、好みのタイプなら男でも女でもイケるだけだ。どっちとも付き合ったことあるしな。
まあ渡邉さんがそこまで言うなら、隣人に少し興味はあるけど……。
このご時世だし、関わることはほとんど無いだろうな。
──この時はそう思っていた俺の予想は後に見事に覆されるのだが、それはまた、別の話だ。
柴京介の徒然除霊日記①【終】
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