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番外編:柴京介の徒然除霊日記【3】ー①
※番外編その3。
サブタイトルは『京介、礼二郎と(勝手に)将来を誓い浮かれまくる』です。
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槐礼二郎は、俺が想像していたよりもだいぶ変わった男だった。
あの日急にお隣から悲鳴が聞こえたので、俺は思わずビクッとしてリモコンを落としそうになった。
「……!?」
俺の隣には槐君しか住んでいない。変質者にでも押し入られたのだろうか?
でもその後は音がしなくなったので、原因は別にあるに違いない。
部屋を出て恐る恐るインターホンを鳴らすと、槐君本人が出てきてボロボロと涙を流しながら『助けて』と言うので何事かと思ったら、ゴキブリが部屋に出ただけだった。
俺の実家は山の方にあるので、虫を殺すなど朝飯前だ。返事も聞かずにズカズカと部屋に押し入ってGを退治し、丁寧に後始末まで終わらせるといたく感謝された。
こんなことで好印象を持ってもらえるなんてチョロイケメンすぎないか? と若干心配になった。
槐君の背後には今朝電車の外にいた女性の霊が憑いていた。ついでに払ってあげようかなと思ったけど、除霊師だと明かすのは時期尚早かと思いやめておいた。
彼女から槐君に対する悪意は感じられなかったので、まあいいかな、と思って。
家に入る直前、虎鉄の存在に気取られたのは正直驚いたけど。
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次の日、起きたら槐君からLineが届いていた。何でも昨日のお礼に朝食をご馳走してくれるという。
朝食を作ってくれるなんて、今まで一緒に朝を迎えたどの人間もしてくれたことがない。別にして欲しいわけではないし、俺にそこまでしてやりたいという魅力がなかったんだろうけど……だからこそ新鮮で、凄く嬉しかった。
着替えていると、槐君がベランダで誰かと話している声が聞こえた。もしかして右隣の住人とは既に親しいのだろうか。
左隣の住人として少しジェラシーを感じたが、朝食をご馳走になる分俺の方が勝ってるはず。たぶん。いや絶対。
エプロン姿で迎えてくれた槐君は可愛すぎて、思わず(新妻かな?)と思った。
彼の作ってくれた味噌汁は凄く美味しくて、久しぶりにありつけたマトモな朝食になんだか涙が出そうになった。もう実家には帰らなくてもいいや、と思うほど。
帰ったところで味噌汁を作ってくれるのはもう母ではなく兄嫁(予定)だし、それを俺が食べるとクソ兄貴が嫉妬して煩いのだ。
マジで死んでくれねぇかなあいつ、と思うけど死んだところで今度は霊になって絡んでくるに違いないので、それは今よりもっと鬱陶しい。なので一生生きてて欲しい。
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槐君は昨日俺がナンパから助けたことと、ゴキブリを倒したことでなんだか俺のことが気になりはじめているようだった。
俺が槐君のことをやたらと好みだ、と言ったのも大きかったらしい。
そんなにチョロくて大丈夫か。俺はまた心配になった。
冗談でお付き合いを提案したらそれも満更でもないようで、あと一押しって感じだった。本当に大丈夫か。
槐君はなにやら男同士なことに抵抗があるようで(?)煮え切らない返事をした。
なので俺は潔く身を引いたのだけど、お友達から始めることにはうっかり成功してしまった。
一緒に家を出て大学に向かうなんて、まるでもう同棲しているみたいじゃないか。
いやもう、ほぼ同棲だろこれは。お互いの部屋に居ても壁一枚しか隔ててないし、朝食まで共にしたのだから俺達はもう同棲していると言っても過言ではない筈だ。
というか、槐君は俺に『毎朝味噌汁食べに来る?』とプロポーズみたいなことを言ってのけたので、俺達はもう同棲じゃなくて結婚しているのかもしれない。
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