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②
電車の中で、昨日槐君をナンパしたサラリーマンのおっさんと再び会ってしまった。出勤時間自由かよ。
二日連続で会っただけのくせに、やたらと槐君と自分を運命だなんだと言うのでイラついたので、精一杯マウントを取ってやった。
こっちは毎朝味噌汁を食べに来いとプロポーズされて、同棲すっ飛ばして既に結婚してるんだよクソが。
まあ本当のプロポーズは、正式に付き合ったあとに俺からするけどね。
*
槐君に取り憑いてる霊はどうやらこのおっさんに激しい恨みを抱いており、槐君の身体を乗っ取って復讐するのが目的らしい。
俺の恋人(仮)を殺人犯にしてたまるかよ。離れろ離れろと念を送ってもなかなか離れないため、俺は強行手段に出た。
マウストゥマウスで槐君に俺のチカラを吹き込んだのだ。
この方法は霊を引き剥がすには確実だが、もちろん誰にでもやれる訳では無いので相手は慎重に選ばなければいけない。
除霊師だと大っぴらに名乗ったらこういう系の依頼も増えそうだから、俺は今のところ事故物件専門除霊師なのだ。
渡邉さんには対人間の依頼を受けようものなら、取り憑いた霊を剥がしたあとアンタに憑けてやるからな、と言い含めてある。
俺は除霊師一本で生きていこうと思っているわけじゃないので、特技を生かしつつ小遣い稼ぎができればそれでいい。
親父は俺に除霊の才能を活かして欲しそうだったが、母は『京介のしたいようにしなさい』と言ってくれたので、俺は俺のしたいようにする。次男で本当に良かった。
虎鉄が女性の霊に噛み付き、俺の言う通りおっさんに擦り付けて除霊は完了した。
呪い殺すなどの直接的な復讐はできないだろうが、彼女の意志次第では少々痛い目に合わすこともできるだろう。せいぜい頑張って恨みを晴らして欲しい。
*
その後、槐君は精神的に疲れただろうに頑張って大学に行った。えらいな。俺だったら絶対にサボる自信がある。
槐君は人当たりが良いせいか、女子よりも男子に圧倒的にモテる。
異性にモテないのは例の噂のせいだろうけど、その分男友達にベタベタされていて、なんだか気分が悪い……仕方ないけど……。
またしてもマウントを取ったからか、槐君の友人──池永君は何かを察したらしく、すぐに槐君から離れてくれた。
物分りの良い奴はわりと好きだよ。
それでも槐君が早く俺のものになればいいのにな──なんて思ってしまう。
とりあえず護衛というテイで虎鉄を槐君に張り付かせた。
槐君はえらく虎鉄を気に入ってくれたようで、既に『こてっちゃん』という美味しそうなあだ名で呼んでいた。
俺の恋愛成就のために、もっともっと槐君と仲良くなってくれよな、虎鉄。
『ワフッ!』
俺の下心を知ってか知らずか、虎鉄も槐君がお気に入りらしいので機嫌よく返事をしてくれた。
槐君は講義の後バイトらしいので、虎鉄が戻ってきた。どうやら首尾は上々らしい。
良くやったな。帰ったらお気に入りの線香を沢山焚いてあげよう。
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