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45:夢の話①
夢の中で、礼二郎は真っ暗な部屋の中にいた。
(……此処は、どこだっけ)
やけに埃っぽくて、黴臭い。自分の部屋ではないし、もちろん実家でもない。
乱雑に散らかった室内は、長年誰も住んでいないようだ。
まるでお化け屋敷のような──
(……お化け屋敷!?)
お化けは嫌いだ。たとえニセモノでも、自分には時々本物が視えるので関係ない。
こんな場所にいたら本物に囲まれてしまうかもしれない。それは嫌だ。
早く、早くここから出なければ。
(ドアは……窓でもいい、どこだ?)
ドアも窓も見つからない。
(ああ嫌だ……誰か……ヒッ!?)
足元で何かが数匹蠢いた。嫌な予感がして見れば、礼二郎の大嫌いなあの虫がいた。
(ぴゃああぁぁあっ!?!?)
思い切り叫んだはずなのに、声が出ない。
当たり前だ、これは夢なのだから。
(た、た、助けて……誰か、助けて!)
ゴキだけではない。天井の隅には丸々と太った蜘蛛が礼二郎を見下ろしている。
蜘蛛もかなり苦手な礼二郎は、思わず声にならない悲鳴が洩れた。
(だ、だ、誰かぁぁ!!!!)
しかし、誰が自分を助けてくれるというのか。
両親は多忙だし、優しい兄は転勤になり家を出てしまった。
自分も進学して一人暮らしを始めた。友達は何人か出来たが、家に呼べるような仲ではない。彼女もいない。
誰も、礼二郎が此処にいるのを知らないのだ。
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