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第2話

 どのくらい気を失っていたのか。  うっすら意識が戻ってきたところでガサガサと草を掻き分けて何かが近づいてくるのが聞こえた。 「おい、大丈夫か⁉︎」 「……」  かろうじて薄目を開けることはできるが、声を出す気力は無い。  清明に声をかけた男は、その後も何度か声をかけた。しかしそれ以上の反応は無さそうだと判断すると、仕方ないな、と言いながら清明の体を抱えて起こす。 「…重いな」  男は、ぐったりしている清明を背負うとゆっくり山を降りていった。  清明が目を覚ますと見知らぬ部屋で横になっていた。  外はすでに暗く、部屋には小さなあかりが一つだけぼんやり灯っている。  起きあがろうとすると体のあちこちに痛みを感じて思わず呻き声が漏れた。 「起きたか」  清明と同じ寝台に腰掛けて、書物に目を通していた男が顔を上げて声をかけた。 「……ここは?」 「無理に起き上がるな。ここは、私が住み込みで医学を学んでいる先生の家だ」 「君は?」 「私は春雷という。お前、自分の名は言えるか?」 「清明」 春雷と名乗った男は、清明の様子をじっと観察しがら質問を続ける。 「気を失う前の事は覚えているか?」 「猪の妖魔が出て困っていると聞いて様子を見にきた。山道で気になる場所を見つけて調べていたら突然大猪が出てきて…頭突きをくらって、その後のことは覚えていない」 「退治に来たのか? 脚の傷は、牙が刺さったんだろうな。場所が悪ければ死んでいたぞ」 「避けようとしたんだが間に合わなかった。助けてもらって感謝する」  春雷は、歳は清明と同じくらいに見える。肌は色白で、長い髪をくくらずに下ろしていて中性的な雰囲気だ。 「噂は聞いていたが、まさか本当に出るとはな。ところで……」  春雷は少し考えて口を開いた。 「……犬のような妖魔を知っているか?」  クロの顔を見られてしまったのか。放り投げた時に仮面が脱げてしまったのかもしれない。クロを見慣れている者ならまだしも、普通の人ならそれだけで逃げ出すところだ。 「私が連れていた妖魔だ」  正直に答えたが、何か言われるのではないかと内心身構える。 「焦った様子でやって来て、何か言いたげにこちらを見るので後をついて行った。そうしたらお前が倒れていた」  清明は驚いた。まさか妖魔に素直についてくる者がいるとは。  春雷は呆れた様子で言った。 「妖魔狩りに妖魔を従えて来たのか?」 「クロは賢いし、いうことも聞く。猟犬というか……相棒なんだ」  大怪我をしたまま山の中で過ごす事にならずに済んだのはクロのおかげだ。 「ここへも着いて来た。家に入れるわけにもいかないから、裏山で待つように言っておいた。言葉が通じたか分からんが。」 「そうか、無事ならよかった」  おそらく言われた通りに裏山で主人が迎えに来るのを待っているだろう。  相棒の安否がわかって安堵すると、清明は一気に疲れが押し寄せてくるのを感じた。 「お前は頭もぶつけているようだし、脚の傷もひどいから無理に動かない方がいいぞ。しばらく寝ていろ」 「ああ、すまない」  頭が割れそうなほど痛み、脚も焼かれているような感覚で、寝つけるだろうかと思ったが、瞼を閉じると意識は暗闇に吸い込まれるように眠りについた。

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