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第6話
「これはなかなか根気がいるな……」
清明は椅子に座って、机の上に盛られた乾燥した棗の実を、大きいの、小さいの、傷んでいるもの……と、籠に選り分けながら呟いた。
棗の山は、減ってきたら春雷に注ぎ足されて高くなったり低くなったりしている。
ここのところ清明が寝台の上で暇を持て余しているのを察して、春雷は自分の雑用を手伝ってくれるよう頼むようになった。
座ってできるので、脚の怪我の負担にもならない。
「棗は大きいからまだましだぞ。麦の粒ほどの実だったら、もう実なのか塵なのかわからなくなってくるからな」
「医者はこんなことまでやっているのか?」
「これは、ここで使う分だけ残して、あとは売って生活費にするんだ」
「なるほど。働きながら勉強までしてえらいな、春雷は」
傷んだ実の、無事な部分をつまみ食いしながら春雷は答えた。
「そんな大層なものじゃない。……今年の棗は出来がいいな。食ってみるか?」
大きめの実を一つ清明に差し出す。赤い実は乾燥して縮んでいるが艶がある。
「いいのか?」
春雷から受け取って、ひとくち齧る。
「うん、甘い」
「だろう?」
「これにはどんな効果が?」
「大棗は滋養強壮、血を作ったり、心を落ち着けるとか、そんなところかな」
「食べ物にはいろんな働きがあるんだな」
「普段食べている物で体の調子は左右されていると思う。……そういえば、クロは何か食べるのか?」
春雷はふと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「妖魔の中には人や動物を襲って食べるものもいるが……。クロが何か食べているところは見たことがないな」
清明も聞き返す。
「春雷はクロが怖ろしくないのか?」
「初めは驚いたが、見慣れると別に怖くはないな。野犬や番犬みたいに吠えて来ないし」
春雷は遠い目をして続けた。
「私が育った家にも飼い犬がいたから、仕草は何となくわかるんだ」
「そうなのか?」
「クロを初めて見た時はとても焦った様子で、私も咄嗟について行ってしまったから、怖いとは思わなかったんだ。後から冷静に考えて、普通の犬じゃないと気づいたが……」
「なるほど」
「普段も連れているのか?」
「たまにな。普段は仮面をつけて顔は隠している。山で無くしたようだから、また仮面を作ってやらないと」
「仮面か……。帰る時に必要だろう?使えそうなものが、何も無いな……」
春雷は、使えそうな物が無かったか?と、物入れになっている木箱の中を覗き込んだ。
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