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第9話
夜も遅い時間、書院にフォンが早足でやって来た。
「清明様が様子が妙だったとおっしゃっていた者が、祠を壊した者を見ておりました。金で口止めをされていたようですが、犯人が捕まった事を伝えましたところ口を割りました」
「麓の住民たちは大概、祠や祀られていた猪のことを知っていたが、その者だけは此方が知らないふりをしていたら最後まで話さなかったのだ。それとなく質問を変えてもはぐらかしている様子だった」
「口止め料には手をつけておらず、祠の再建費に、と申しております」
「犯人も直接的に人に危害を加える気はなかったんだろう。まあ犯罪だからな」
「山賊の方は、金に困っている者が集められたような集団でして、余罪もなさそうです。祠を壊した軽罪のみになるかと」
平穏な土地のため、人間同士の小さないざこざは度々あるが大事に至る事は少ない。
今回の件は、別の道を使って貿易をしていた商人が、山道を絶って自分に仕事が回ってくるように妖魔が出ると嘘の噂を広げた。祀られていた猪を心配して祠の様子を見にいった住人が山賊と鉢合わせしてしまい、口論になって山賊が祠を壊してしまった。そして、本当に妖魔が出るようになってしまったのだ。
「妖魔ももう出まい。後は任せた」
「はい」
「捕まった者達は、金が欲しいだけなら刑が終わったあと何か働き口を世話してやれ」
もう何十年も大きな争い事もなく暮らしているが、ここ三年ほどは気候に恵まれず作物の育ちが思わしくない。
もともと余裕のない生活をしていた者たちが、いよいよ生活が立ち行かなくなってきている。
清明も何か策を考えなければと、先日から頭を悩ませていた。
「人探しの方ですが、こちらはまったく手がかりが無く……国外に出られていないといいのですが」
「……そうか。そちらも引き続き頼んだ。フォン、今日はもう上がって良いぞ」
「清明様もほどほどにお休みください。ここ最近働き詰めです」
「うむ、適当に片付ける」
そう答えて清明はまた机の上の書類に意識を戻した。
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