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第三章① おでかけ
肇との関係は、相変わらず金銭の絡む関係ではあるが、結構うまくいっている。と薫は信じている。
週に一、二回会いにいって、体を重ね、おやつを食べる。前にデパ地下のプリンを手土産に持っていったら喜ばれたので――真純が喜んで食べたという意味である――ゼリーや焼き菓子やケーキといった手土産を欠かさず持っていくようになった。
基本的に会うのは昼間、真純のお昼寝の時間だが、夜に会ってもらえることもある。その時は大概泊まることになり、薫は自分でパンを買っていって朝食を共にすることが多かった。
肇の育成のおかげか、回数に比例して薫の夜のテクニックも少しずつ向上している。三擦り半でイク早漏雑魚ちんぽだなんて、もう二度と言わせない。
「おい、なに外に出してんだよ」
尻を向ける恰好でうつ伏せになっていた肇は、肩越しに薫を睨んだ。
「だって、中に出すとお腹痛くなるって、ネットに書いてあったよ」
「ばぁか。そりゃひ弱なやつらのことだろ。俺ァ頑丈だから、いくら中出しされても平気なんだよ」
「え~、でもぉ~」
実のところ、薫も中に出す方が好きだったが、あえて外に出すのにも理由があった。肇がそろそろイキそう、というところで一気に引き抜くと、蕾の縁が切なげに吸い付いてきて、それが堪らなくかわいいのだ。
「変な気ィ回されっと逆に迷惑なんだよ。てめぇ、俺の食い扶持になるつもりなら、じゃんじゃん中出しして金落とせ」
肇は薫の腰に足を絡めて催促する。薫は「しょうがないな」というふりをしながら、あっという間に臨戦態勢になった自身で再び肇を貫く。
外に出す理由の二つ目はこれだ。そろそろイキそうなところで快感に置いていかれた肇は、十中八九自ら薫を求めて股を開く。雄の本能が刺激され、薫はひどく満たされた気持ちになる。
「ねぇ、明日ってさ」
「ぅ、あ……なに?」
「明日。今日と同じ時間でいい?」
「ヤッてる最中に話しかけんなよ……っ」
薫にゆるゆると揺さぶられながら、肇は棚の上のカレンダーを見る。
「ああ……明日は、あれだ。誕生日」
「へぇ~……」
「いつも通りでいいぜ。昼寝の時間に――」
「って、えぇっ!?」
薫は思わず叫んだ。肇はビクッと腰を震わせる。
「てめ、いきなりうっせぇ。ケツに響く……」
「だって、えっ? 誕生日? なの? 明日?」
「っせぇなぁ。そーだっつってんだろ」
「えっ、でも、肇の誕生日は……」
その程度の個人情報はとっくに調べがついている。肇の誕生日はまだ先のはずだ。
「俺じゃねぇよ。真純のだ」
「なるほど……」
「……おい、てめぇがでけぇ声出したせいだぞ」
ゆっくりと襖が開いた。昼寝から目覚めた真純が、瞼を擦っていた。
「ぱぱぁ?」
「おー、真純。起きたか」
肇は驚異の反射神経で薫を蹴り飛ばし、さっと下着を履いた。
「おちゃ」
「そこで待ってろよ。いい子だから」
肇は薫に服を投げ付けると、コップにりんごジュースを注いだ。
「お茶じゃないじゃん」
「昼寝の後はこれなんだよ。てめぇはとっとと服を着ろ。真純に粗末なモン見せんじゃねぇぞ」
「僕の好きって言ってくれたのに」
「リップサービスに決まってんだろ」
自分で豆椅子を引っ張ってきて座った真純は、おいしそうにジュースを飲んだ。その隙に、二人は急いで服を着る。
薫もテーブルにつき、持ってきた紅茶を飲んだ。薫の喉が渇いても、肇は酒か水道水しか出してくれないので、薫は自分でペットボトルを用意するようにしている。
「ねぇ、真純くん」
薫が話しかけると、真純はきょとんとして薫を見つめた。
「明日のお誕生日会、僕も一緒にお祝いしていい?」
「う?」
「お祝い。いーい?」
「いーいーよ」
「おい、何勝手に話進めてんだ」
キッチンで水分補給をしていた肇が会話に参加する。
「だって、明日お誕生日なんでしょ?」
「だからって別に何もしねぇぞ。普段通りでいいだろ、めんどくせぇ」
「そんなの寂しいじゃん。せめてケーキ食べようよ、ケーキ。僕買ってくるからさ。真純くんも、ケーキ食べたいよね?」
「けーき、たーたい」
「おい、言わせんじゃねぇ。ケーキならわりとよく食ってんだろ」
「ああいうのじゃなくて、ホールのケーキだよ。ろうそくも立てなきゃだし、バースデーソング歌わないと。だって、真純くんがこの世に生まれてきてくれたおめでたい日なんだから。肇もお祝いしたいでしょ?」
「……」
肇は渋い顔をして黙り込んだ。
「僕達三人で食べるなら小さいケーキでも大丈夫だし、今からでも予約間に合うんじゃない? ていうか、いっそのことお出かけしちゃおっか?」
「おい、勝手に……」
「真純くんは? おでかけ、楽しいよ」
「こーえん?」
「ううん。もーっと楽しいとこ! たっのしいとーこ!」
「たのし! たのしー!」
「うんうん。うきうきしちゃうとこ!」
「うきうき!」
「えへへ、真純くんはかわいいね」
愛くるしい真純と触れ合っていると、薫の頬はでれでれに緩む。盛り上がる二人を見て、肇は観念したように溜め息を吐いた。
「お出かけって、どこ行くつもりだよ」
「そりゃあもちろん、」
遊園地だ。
集合時刻は遅めに設定したが、エントランス付近はいまだ混雑が続いている。同じ電車で来ればよかった、と薫はつくづく思った。この人混みの中、無事に二人と合流できるだろうか。というか、寝坊しているかもしれないし、そもそも来てくれないかもしれない。
「あっ!」
鈴を転がすような声が響いた。聞き慣れた、真純の声だ。肇に肩車されて、薫を見つけてくれた。
「会えてよかったぁ。ちゃんと来てくれたんだ」
「俺みてぇのが約束守んのは意外だったか」
「そうじゃなくて! ただちょっと、強引に誘っちゃったかなって」
「なんだ、自覚あったのか」
「まぁね。でも来てくれてほんと嬉しい」
「しょうがねぇだろ。真純がもう張り切っちまって、今更行かねぇなんつったら一生恨まれるわ」
肩車を降りた真純は元気に駆け回った。賑やかな雰囲気を楽しんでいるのかもしれない。
「真純くん、お洋服かわいいね。クマさんだね」
「くましゃん」
薫が褒めると、真純は照れたように笑い、ちらりと肇を見た。
真純は、黄色いクマのキャラクターが大きくプリントされたTシャツを着ていた。普段から着ているものではあるが、肇が今日のために真純の服を選んだことは想像に難くない。
「も~、パパったら」
「んだよ、そのムカつく顔は。さっさと行くぞ」
チケットは薫が先に買っておいた。入園ゲートをくぐれば、そこはもうおとぎの国である。季節の花々が咲き乱れ、幸せな笑顔が満ち溢れ、着ぐるみが――もとい、絵本の世界から飛び出してきたキャラクター達が、ゲストを出迎えてくれる。
「わぁっ!」
真純は歓声を上げ、肇と繋いでいた手をぱっと離して駆け出した。
「くましゃん! おんなじ!」
服にプリントされているのと同じ、黄色いクマのキャラクターを目指して、真純は一目散に走っていく。
「真純くん! 急ぐと危ないよ!」
「真純ィ、転ぶなよ」
真純は、絵本やテレビや空想の中の住人だと思っていたキャラクターが現実に存在していることに驚き、興奮しているようだった。記念撮影の列に突っ込む勢いだったが、その前に肇が真純を抱き上げた。
「焦んなよ。ほら、バイバイしろ」
「くましゃん」
「バイバイだ。クマも手ェ振ってるぞ」
記念撮影の列に並んでいたわけでもないのに、サービス精神旺盛なクマは真純に手を振ってくれた。真純は恥ずかしそうに手を振り返したが、肇の胸にさっと顔を隠してしまった。
「なに照れてんだよ。クマ好きなんだろ」
肇は慈愛の笑みを浮かべる。薫は、昨日急いで購入した最新機種のデジタルカメラを構え、目の前の幸せな光景を写真に収めた。
「そのクマのアトラクション、行ってみる?」
「こいつ、そんなに出世してんのか」
「出世っていうか……一応古株だしね」
薫は、入園の際にもらった園内マップを開いた。
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