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第七章④ ♡

 襖で仕切られているとはいえ、隣の部屋で真純が寝ている。なるべく物音は立てず、息を潜めて、二人は秘めやかに交わった。そうは言っても、である。   「んっ、ふ……んん゛……っ」    枕に顔を押し付けて、肇はくぐもった喘ぎを漏らす。快楽に慣れ切っているはずの肇のこういった反応は新鮮で、薫はついいい気になって性感帯をしつこく突いた。   「んン゛ぅっ……♡」    しなやかな筋肉に覆われていながら意外にも細く括れた腰が、ビクビクと激しく波打った。精液は出ないが、ナカの様子から軽く達したらしいことが伝わる。小刻みに痙攣して、蕩けた肉襞が蠢いて、雄を求めて絡み付いてくる。   「なんか今日すごいね。感じまくってない?」 「し、らね……」 「やっぱり久々だから? なんか感覚違う?」 「しらね、って……んン゛、♡」    余裕なく快楽に翻弄される肇の姿は初めて見た。もっと見たい。顔が見たい。声が聞きたい。薫は肇の抱きしめていた枕をどかした。だらしなく愉悦に染まった顔が覗く。   「く、っそ……かえせ」 「顔見てしたい。おねがい」 「っ、むりだ、こえが……」 「優しくするから。ね?」    宣言通り優しく奥を捏ねると、肇は耐えるように身を捩った。   「はっ、ぁ゛……♡」 「いいでしょ? ね。やさし~くするから」 「んぁ゛、あっ……んんン゛っ……♡」    ゆっくりと抜き去り、焦らすように押し込んでいく。肇は切なげに眉を寄せ、もどかしそうに腰をくねらせながら、唇を噛んで甘く上擦った声を押し殺す。薫に奪われた枕を取り返せばいいものを、熱に浮かされた躰にそんな力は残っていないらしい。与えられる快楽にただただ悶え、理性までもが甘く蕩けて吹っ飛ぶ寸前だ。   「かぉ、……かおる……♡」 「なぁに? 僕も好きだよ」 「くち、っ、くちふさげ……っ」 「キスしたいの? かーわい」    唇を重ね、舌をねじ込む。肇も甘えるように舌を絡めてくる。同時に最奥を荒々しく突き上げる。肇の苦しそうな喘ぎが喉の奥に響くが、それさえも呑み込んで深いキスをする。唾液を混ぜ合う音と、胎内を掻き回す音。いやらしい水音だけが、深夜の一室に響いていた。逃れようのない熱に、夜を支配されていた。     「一緒に住もうか」    布団を寝室に敷き直し、薫は言った。   「なに生意気言ってんだよ。ガキのくせに」    肇は、真純の隣に気怠い体を横たえて、今にも眠りそうに目を伏せたまま答えた。   「年齢関係ある?」 「あ~、訂正。橘本家の御曹司が何言ってんだよ」 「それも関係ないし。っていうか、だからこそだよ。あんな家を有難がって言いなりになる必要なんてある? 邪魔なものは全部捨てて、二人と一緒にいたいもん、僕」    肇を蔑ろにした養父母。何も知らず肇を白い目で見て、一方的に同情したり見下したりしてきた親戚連中。それを知っていて諫めることをしない薫の両親。どいつもこいつもろくでもない。同じ穴の狢だ。  事ここに至っては、「肇とは二度と関わるな」なんて理不尽な要求を一方的に突き付けてきて、薫の自由意志さえ奪おうとしている。もちろん、そんな約束に縛られる謂れはないので、早速破っているわけだが。   「だからってお前……親は大事にしろよ。せっかくそばにいるんだからよ」 「……そう?」 「愛されて育ってきたんだろ、お前は」 「……」    そう言われると、何も言い返せない。確かに、本家の跡取りとして多額の資金を注ぎ込まれ――いや、大切に育てられてきた自覚はある。肇には望むべくもなかった破格の待遇を、薫は幼少期から当たり前のように享受している。肇には親がなく、親代わりを務めるはずの人々もその役目を全うできなかったことを思うと、薫は相当に恵まれて育ってきた。   「じゃあ、親父と取引する」 「……マジで何言ってんだ?」 「肇との交際を認めてもらえるなら、僕は家のために尽くす。許してもらえないなら、僕は家を棄てる」 「はぁ~? アホらし」 「いや、結構勝算はあると思うよ。今まで僕にいっぱい投資してきたわけだし、おかげで僕ってばすっごい優秀だし、手放すのは惜しいと思うんだ。こんな逸材をみすみす逃すなんて、そんな馬鹿げた話ってないもん」 「すげぇ自信だな」 「さすがに交際は認めてもらえないだろうけど、とりあえず干渉しないでもらえるならそれでいいし。僕が肇との結婚まで視野に入れてるとは考えないだろうから、きっと譲歩してくれるよ」 「……まぁ、何でもいいけどよ」    肇は呆れたように言い、ごろりと寝返りを打った。   「僕、本気だからね」 「へーへー」 「肇のこと、本気で好きなんだからね。分かってる?」 「わーってるよ」 「肇は? 僕のこと、好き?」 「あぁ? そうだなァ……」    肇は腕に枕して、じっと薫を見つめた。ほとんど完璧に近い、妖しい魅力を宿した美しい顔立ち。間近に見つめられて、薫の心臓は敏感に跳ねる。肇は眦を柔らかく緩ませると、薫の耳元にそっと唇を寄せた。   「愛してるぜ」    ぞくぞくする色気を孕んだ低音が囁いた。      早朝、真純が一番に目を覚ました。もそもそと起き上がり、布団の上でぼーっとして、隣を見れば肇と薫が団子のようにくっついて寝ていた。   「ぱぱぁ」    紅葉のような手で肇の顔をぺたぺた叩く。肇は若干鬱陶しそうに唸りながら、夢現に真純を抱き寄せた。   「まだ寝てろ」 「かおるずるい。ますみもぎゅーする」 「してんだろーが」 「もっとだよぉ」    真純は肇の体によじ登った。肇は真純を抱き、背中を優しくとんとん叩く。豊かな胸に耳を押し当てれば、規則正しい心音がとくとくと響いてくる。背中を叩くリズムと肇の心音が交差して、真純は再び瞼が重たくなった。  二番目に起きたのは薫だ。肇とくっついて寝ていたはずなのに、いつの間にか真純に独占されていた。二人ともぐっすり寝ているし、起こすのも忍びなく、薫は真純ごと肇を抱きしめて、もう一度目を瞑った。  やがて肇が目を覚ました。左右からしがみつかれて、さすがに重い。そして暑い。真純はいいとして、デカい図体で圧し掛かってくる薫のことは普段なら蹴り飛ばしているところだが、生憎今朝はそんな気分ではない。肇は、抱きついてくる子供二人を、両の腕にしっかりと抱きしめた。

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