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第八章② ♡

 この日のために、一週間禁欲した。同じ部屋で寝ていながら、手は出さない。ただしキスはした。魅惑の唇を前に、我慢できなかった。「チューだけだから」と薫が食い下がると、仕方ないなという感じで肇は応えてくれた。  そして、今日がその待ちに待った金曜日。週末というだけでもわくわくするものだが、今日の胸の高鳴りは別格だった。朝、家を出る時にどんな顔をしていたのか、自分で思い出すのも恥ずかしいくらい、期待に満ち満ちていた。  講義は五限までしっかり受けたけれど、勉強にはまるで身が入らず、心ここにあらずといった調子が続き、教授のありがたいお話も右から左へ抜けていくようで、とにかくずっと上の空だった。夜が待ち遠しくてしょうがなくて、一刻も早く家に帰りたい一心で一日を過ごした。   「ただいまっ!」    息を切らして玄関を開ける。肇は先に帰っていた。   「お~、遅かったな」    呑気に迎える肇の姿を見て、薫は言葉もなく立ち尽くした。教科書の入った重たいカバンをその場に落とし、肇を強く抱きすくめた。   「あ? 急に何――」 「なんて恰好してるの!」 「何が――」 「エプロンなんて! 今まで一回も着てくれたことなかったのに!」    ずっと昔に薫がプレゼントしたエプロンだった。フリルが付いているとか花柄だとかそういったわけではなくて、ユニセックスのシンプルなものを選んだのに、肇が身に着けてくれたことは一度もなかった。それなのに、なぜ今日に限って。  あえて今日を選んで新品のエプロンを下ろすなんて、狙ってやっているとしか思えない。だって、エプロン着けてキッチンで待っているなんて、そんなのもう新妻みたいなものじゃないか。いや、肇はどちらかと言うと未亡人なのだが。   「なんでって、お前が炊飯器セットしとくの忘れるからだろ」    ボウルに水と白米が入っている。ちょうど米を研いでいる最中だったらしい。普段、家政婦が来ない日などは、出かける前に炊飯器をセットして帰る頃に炊き上がるようにしておくのだが、今朝は浮かれすぎて忘れていた。   「え~、ごめぇん」 「反省してねぇな」 「だってさぁ」    米を研ぐだけでわざわざエプロンをする必要があるだろうか。朝食にパンを焼く時だって、着けてくれたことはないのに。  薫は、肇を背後から抱きすくめたまま、その豊かな胸に両手を這わせ、優しく揉んだ。エプロンの下のTシャツの下にある、柔らかな筋肉を確かに感じる。   「おい、飯は」 「ん~、とりあえずごはんだけ炊いて」 「この状態でかよ。団地妻ごっこでもしたいのか?」 「僕は新婚さんごっこがしたいかな」 「はっ、何が新婚だよ。何年一緒にいると思ってんだ」 「うん。だから、乳首の位置も簡単に当てられるよ」    胸の尖端を、指先でつんと突ついた。肇は面白くなさそうに舌打ちをする。   「当たったでしょ」 「っせぇな。だから何だよ」 「だから~、こここねこねしちゃいます」    服の上からでも、固く尖ってきたのが分かる。目に見えなくても、触れば分かる。肇はカウンターに手をついて、拳を握っている。   「ねぇ、早くごはん」 「っ、くそ。元はと言やぁお前が……」    肇は辿々しくも手を動かす。ざくざくと米を研ぐリズムに合わせて、粒立った乳頭をすりすりと撫でる。   「くそ……っ」    肇は悪態を吐くが、そんなことをしても息が上がっていることを隠すことはできない。薫の腕の中で微かに震える躰を隠し通すことはできない。心臓の鼓動が高鳴っていることさえ、薫には全てお見通しなのだ。  いつの間にか、薫は肇の身長を追い越していた。あんなに大きく見えた男が、今じゃ小動物みたいに――というのは言い過ぎだが、頼りなさげに身を震わせて、薫に全てを委ねているなんて。  薫がうなじに舌を這わすと、肇はビクッと震えて尻を擦り付けてきた。反射的に体が動いただけのようで、肇は気まずそうな顔をしながら、恥じらうように姿勢を正した。けれど、そういった態度がますます薫を昂らせる。  もう一度、うなじを舐める。背筋の窪みからつうと舌を這わせ、襟足をざりざり舐める。ガタン、と物の倒れる音がした。肇がカウンターに両手をついていた。まるで崩れ落ちたかのように、力なく上半身を伏せていた。  肇が肩越しに薫を睨む。その瞳には涙が光っており、その先はもうなし崩しだ。     「あっ、も、やめろ、って……こんな、とこで……っ」    肇をカウンターに座らせ、下着を脱がせて、薫はその股座に頭を突っ込んでいた。下はすっかり脱がせたが、上は全く脱がせていない。もちろんエプロンも。丈が長いせいでスカートの中に潜り込んでいるような感じがして、その倒錯的な状況に薫はますます興奮した。   「はなしをきけ、って……このっ……」    肇は、エプロンの上から薫の頭を掴む。無理やりにでも引き剥がしたいのだろうが、残念ながら力が入っていない。ただ薫の髪をくしゃくしゃと撫で回すだけになっている。薫がきつくしゃぶり付くと、肇はビクンと背中を丸めた。薫を引き剥がすどころか、縋るようにしがみついてくる。   「ぁ、あっ、も……でちまう、っ」    いいよ、と言う代わりに、深く咥え込んだ。その瞬間、喉に放たれる生命の源。どろりと濃厚で、量も多い。やっぱり、どこまでいっても肇は男で、薫は男である肇が好きだった。  はぁはぁと息を切らして、肇は薫の頭を抱きしめる。達したばかりの敏感なそこは、薫の口の中でいまだピクピクと痙攣している。もう一度悪戯程度に吸ってみると、肇は怒ったように薫の背中を蹴った。   「いた~い。暴力はんた~い」 「ぶりっ子すんな。かわいくねぇ」 「ひどっ」 「自分だけ楽しみやがって。俺にもさせろ」    肇はフローリングに膝をつくと、薫のベルトを外し始めた。   「してくれるんだ」 「やられっぱなしは性に合わねぇんだよ」    ズボンも下着も下ろされた。ズル剥けのそれが勢いよく飛び出して、肇は舌舐めずりをする。   「はっ、俺のしゃぶりながらこんなに勃たせやがって」 「そりゃ勃つでしょ。肇すごいエッチなんだもん」 「ガマン汁だらだらじゃねぇか。変態」    肇は迎え舌で先端を舐める。玉のようにぷっくりと浮き出た透明な汁を舐め取り、恍惚とした表情を浮かべた。   「雄くせぇ」 「おいしいでしょ」 「んなわけねぇだろ。頭沸いてんのか」    そんなことを言いながら、肇は実に旨そうに薫のそれを頬張る。うっとりと目を細めて、下生えに鼻先を触れさせて、喉の奥まで深く迎え入れる。ねっとりと舌を這わせて、喉を使って扱いてくれる。  正直なところ、薫はもう立っているのさえ辛い。みっともなく腰が震え、膝が笑ってしまいそうになるのをどうにか堪えて、カウンターに手をついた。もう片方の手で肇の頭を撫でると、情欲を湛えた黒い双眸と目が合った。  肇の股間のものもすっかり勃ち上がっている。健気にエプロンを押し上げて、先端をじわりと濡らしている。薫がつま先で軽く突ついてみると、肇はびくりと腰を浮かした。   「僕のしゃぶってこんなに濡らして。ヘンタイはどっちだよ」 「っ……」    肇は上目遣いに薫を睨み付けるが、潤んだ瞳で凄まれてもちっとも迫力がない。それどころか、薫を昂らせる一方である。   「……っ!」 「ごめん、ちょっとだけだから。ね? おねがい」    可愛い子ぶってお願いしてみると、肇は薫を睨みながらも、深く咥えたそれを吐き出すことはせずに、より深いところまで呑み込んでくれた。   「ありがと。マジで無理なら殴ってくれていいからね」    薫は肇の頭を支えると、軽く腰を引き、ぐっと奥まで突き入れた。再び腰を引き、もう一度奥へ。ゆるゆると腰を振り、喉を突く。口腔を性器に見立て一方的に快楽を貪るこの行為は、ひどく暴力的で、背徳的で、だからこそ得難い興奮を感じられた。  頬を膨らませて喉を捏ねられながら、肇は苦しそうに顔を歪める。しかしその肌は真っ赤に上気して、エプロンの裾にはテントが張ったままだ。口を性器に見立てて一方的に利用されるというこの行為に、この男は確かに興奮している。  そして、それを目の当たりにした薫もまた、ますます熱く滾ってくる。早く絶頂に至りたいと、ただそれだけのことに心も体も支配される。   「んン゛っ……っ」    肇は、苦しそうに顔を顰めながらもどこか恍惚とした表情で、喉の奥に吐き出された情欲の限りを吸い尽くした。頬を窄めて、まるでストローで吸うみたいに、薫のそれを飲み干してくれた。  ただ、一週間禁欲したせいか、量も多いし粘度も抜群だったようである。喉に絡み付くそれを嚥下するのに、肇は少々苦労していた。フローリングに膝をつき、苦しそうにゲホゲホ咽せている。   「ごめん。多かったね」 「わけぇからな……こんなもんだろ」    心配した言葉は嘘ではないのだけれど、うっすらと涙を湛えて咽せる肇の姿に、薫は飽きずに煽られる。衝動のままに、キッチンの床に肇を押し倒そうとした。   「っ、待て」 「え~、ここまでしといて?」 「ちげぇよ、先にシャワー浴びさせろ」    肇の汗は、薫にとってはさながら媚薬だ。匂いを嗅いでいるだけで性感が刺激される。だから、それを洗い流してしまうのはもったいないけれど。   「一緒に入るならいいよ」

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