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5話・イメージトレーニング
「なにその条件」
「俺もそう思う」
常々相談に乗ってもらっていたこともあり、千代田に早速報告した。場所はいつもの食堂である。
すると、やはり微妙な反応が返ってきた。
「例の噂、マジだったんかな」
例の噂とは『ビッチな伊咲センパイが男を取っ替え引っ替えして弄んでいる』という不愉快極まりない話である。なぜか上級生の間でのみ広まっているらしい。
「なるほどな。今の話で納得したわ。つまり、やっと獅堂の順番が回ってきたってことじゃね?」
単に寝る相手の順番がきただけ?
両想いになれたわけじゃなかった?
「──伊咲センパイはそんな人じゃねえ」
千代田との会話を途中で打ち切り、食い終えた食器を放置して食堂から飛び出す。廊下のど真ん中をずんずん歩きながら、渦巻く黒い思考に意識が乗っ取られそうになった。
交際はセックスをしてからという条件をつけられた理由は頻繁に相手を変えるための方便なのか。上級生の間にだけそんな噂が流れているということは、今までの相手はみな上級生なのか。顔も名前も知らない過去の相手に嫉妬してしまう。
どうしてだろう。
今のほうが辛い。
無意識のうちにいつもの中庭に向かうが、一週間後まで会わないという約束を思い出して足を止める。
無性に会いたい。会って不安な気持ちを拭い去りたい。直接顔を見て言葉を交わせば、きっとモヤモヤした感情なんかすぐに消し飛ぶ。
俺がいない間、何をしている?
他の誰かと会ってるのか?
「伊咲センパイ……」
午後の講義をサボってアパートに帰り、布団にダイブして現実逃避する。
変な条件さえなければ今ごろ大学の中庭かどちらかの家でイチャイチャしたりできたのに。と嘆いているうちにはたと気付く。
そうだ、条件!
来週のお試しセックスを成功させなければお付き合いしてもらえないのだ。悩んだって過去はどうにもならないが、未来は努力次第で変えられる。俺がすべきは男同士のセックスのやり方の予習だ。
高校時代の彼女と何回かセックスしたことはあるが、男とは経験どころか知識すらない。無策で挑めば失敗回避不可能。一週間という猶予はこのために設けられたのかもしれない。
早速スマホで調べてみる。
『男同士 セックス やり方』で検索すると、風俗系のコラムが幾つかヒットした。上から順に目を通していく。専門用語が多く、並行して意味を調べる必要があった。赤裸々な体験談やプロのアドバイスを読みながら、自分にできるのかと不安になる。
そういや相談すらしなかったが、俺が男役 でいいんだよな……?
伊咲センパイは年上だけど、細身で美人だし、女役 側だよな……?
本番中に焦らぬよう、ゲイ向けAVのサンプルを観てみる。素人投稿の動画も見つけたが、カメラの位置が固定されていて分かりにくい上に大雑把なモザイク処理で細部が隠されているから参考資料としてはイマイチだが一応見るだけ見ておく。
わ、わァ……。
予想はしてたが、やはり男同士では尻を使うらしい。挿れる場所が違うとはいえ基本的な流れは男女と変わりないようで安心した。
男同士の絡みを見ても嬉しくもなんともないが、自分と伊咲センパイに置き換えたらめちゃくちゃ興奮すると判明。ゲイ向けAV製品版を一つ購入することにした。伊咲センパイにちょっとだけ雰囲気が似た女役が出演している作品を見つけてしまったのである。知らん男のちんこには全く興味ないが、俺は勉強熱心なのだ。
とりあえず、ゴムとローションを通販で注文しておく。アダルト専門ショップのサイトを眺めるうちにアナル専用ローションという商品の存在を知り、世界は広く奥深いものだと改めて実感した。
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