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7話・童貞疑惑

 過去の彼女との行為はまずキスから始まり、互いの気分を高め合ってからという流れになっていた。  故に、キスを禁止されると意外と困る。  ベッドに押し倒し、キス……は出来ないから、手のひらを肌に滑らせるようにして撫でる。伊咲センパイは全く日に焼けていない。普段よくいる中庭は建物の陰で陽当たりが悪いからだ。ひんやりとした肌の感触が気持ちよくて、触れる手が止まらない。  胸元から細い腰を撫で、そして下に手を伸ばす。部屋着と思しきゆるめのスウェットをずらすと、ビキニタイプの黒い下着が視界に入った。肌が白いからか、薄暗い室内で黒い下着が浮かび上がって見える。  男モノだし、レースやフリルがついているわけじゃないのに黒ってだけで相当えっちだ。しかも触り心地がいい。つるりとした滑らかな生地が俺の指先を喜ばせるが、普段から素知らぬ顔でこんないやらしい下着を身につけていたのかと思うと、つい真顔になってしまう。  無言で下着を撫で回す俺を不審に思ったか、伊咲センパイは怪訝な表情を浮かべている。 「脱がさないのか」 「脱がしていいんすか」 「着たままじゃ出来ないだろ」  それもそうだ。  今日の目的はセックスなのだから。  息をつき、ようやく下着の縁に手をかける。しかし、今度は緊張のあまり動けなくなった。滑らかな布の下に、夢にまで見た伊咲センパイのものが隠れている。ほんの少しだけ下着をずらし、腰骨に直に触れた。触りかたがくすぐったかったのか、伊咲センパイは「ん」と微かに息を漏らしながら僅かに身じろぎをする。 「ちょ、ちょっとタイム!」  慌てて手を外し、体を離して後ろを向く。  まずい、色っぽ過ぎてガン勃ちした。  何もしていないうちから暴発しそうになった俺は、必死に脳内で素数を数え、円周率を唱え、元素記号をそらんじた。期待外れの早漏野郎だと思われたら事に及ぶ前に追い出されてしまう可能性がある。だが、目の前に下着一枚の伊咲センパイがいるのだ。易々と萎えるはずがない。 『扇原先輩には妙な噂があってな……』  ふと、千代田の声が脳内に響いた。  上級生だけに広まっている不名誉な噂。  男を取っ替え引っ換えしている好き者。  不愉快な話を思い出した瞬間、猛り狂っていた股間が一瞬で萎えた。気持ちが落ち着いたわけではない。俺の心は仄暗い嫉妬と怒りの感情に支配されていた。  くるりと向き直り、笑顔を向ける。 「触りますね」 「え? あ、うん」  急に冷静になった俺にやや驚きつつ、伊咲センパイは身を任せてくれた。下着の上から脚の付け根を撫でると、また息を漏らしたような小さな声がした。感度は良いらしい。表情に変化はないが、頬がやや上気している。触られて興奮してくれたのだろうか。  下着の隙間から手を差し入れ、腰からおしりにかけて撫でる。ひやりとした肌が指先に吸い付いて心地良い。気が付くと、両手を下着の中に突っ込んで伊咲先輩の尻を鷲掴みにし、無心で揉みまくっていた。 「獅堂くん、痛い」 「あっすんません、つい!」  見知らぬ誰かへの対抗心と嫉妬心のせいで手付きが荒くなっていたらしい。再び距離を置く。明らかに様子がおかしい俺を見て、伊咲センパイの表情が曇った。 「まさか君、童貞じゃないだろうな」 「ちっ違いますよ!」  俺の童貞は高校時代に捨てている。これまでの経験人数は二人だけだが、下手だと言われたことはないから大丈夫なはず。たぶん。  訝しげな視線を向けられたが、童貞疑惑だけは晴らしておかねば。いや、どうせなら初めては伊咲センパイが良かったな。

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