9 / 43

9話・初めての挿入 *

 フェラで抜いてもらった後も、俺は行為を続けた。 「触りますね」  黒い下着をずり下ろし、あらわになった白い双丘を手のひらで撫でる。女と違って男は自然に濡れないらしいのでローションを持参したが、試しにそのまま指先を押し込んでみた。 「んん……ッ」  すると、予想に反して俺の指はすんなりと飲み込まれていった。やけに柔らかいし、内部が濡れてる気がする。俺、まだローション使ってないのに。  ああ、そうか。伊咲センパイはセックスに慣れてるからこんなにここが柔らかいんだ。その証拠に、指を増やしてもすんなりと入る。ぐちゃぐちゃと音を立てて指を出し入れしていると、感じているのか伊咲センパイが小さく喘いだ。 「獅堂くん、もう……」  枕に埋めていた顔を上げ、肩越しに俺に視線を向けている。普段の澄ました顔とは違う、切羽詰まったような表情。 「もう挿れてほしーんすか」 「ち、ちが」 「いいっすよ。俺も我慢できないんで」  指を引き抜き、自分のリュックからコンドームを取り出して手早く装着する。そして、指の代わりに先端を押し当てた。 「う、くっ、あぁ~~……」  ゴム越しに伊咲センパイの体温が伝わる。ぎゅうと締め付けられ、熱い風呂に浸かった時みたいな声が出た。中が濡れているからか、滑りは良いし気持ちいい。 「ねえ、どっすか俺の。気持ちい?」 「ん、んっ、んっ」 「ちゃんと言ってくんないとわかんないすよ」 「いっ、いまは、無理っ、あぁっ」  寝バックの体勢で腰を両手で掴み、ぐりぐりと内部を掻き回してみた。めちゃくちゃ突きまくりたいけど、奥に入れようとすると何故か抵抗がある。とりあえず浅いところで抜き差しを繰り返した。先っぽだけとはいえ、伊咲センパイのそこは俺をすんなり飲み込んでいる。 「なんで尻穴が柔らかいんすか。もしかして、俺を待たせてる間に他の男を咥え込んでたんすか。恋人は居ないっすよね。まさか、セフレ?」 「そ、そんなの、あぅ」 「他の男に見せたんすか、こんなエロい顔」  あごを掴んで無理やり後ろを向かせると、伊咲センパイの顔は真っ赤に染まり、額には脂汗が浮いていた。潤んだ瞳からはボロボロと涙がこぼれている。 「え、泣いてる? なんで?」  悦楽の涙と呼ぶには泣き過ぎだ。さすがにおかしいと気付き、慌てて伊咲センパイの中から己を引き抜いた。肩を掴んで身体ごとこちらを向かせる。 「俺、ヘタでした? 痛くしました?」 「そうじゃ、ない、けど」 「じゃあなんですか、やっぱイヤだったとか?」 「嫌じゃない、ちがう、違うんだ」  ティッシュでは間に合わず、そばにあったタオルで顔を拭かせるが、とめどなく流れる涙に追いつかない。伊咲センパイはしゃくり上げ、肩を震わせて泣き続けている。どうしたものか迷った後、俺は彼の肩を抱き寄せ、背中をポンポンと叩いて宥める役に徹した。  どれくらいそうしていただろうか。しばらくして、ようやく落ち着いた伊咲センパイが大きく息を吐き出した。そして、躊躇いがちに口を開く。 「中断させてすまない。続きを」 「や、その前に泣いてた理由を教えてください」 「それは……」  さっきから視線が合わない。彼はずっと俯き、下を向いたままだ。正直めちゃくちゃ続きをしたいけど、このままセックスしたら駄目な気がした。  俺はセックスより伊咲センパイを知りたい。涙に理由があるのなら、まず話をしてほしかった。

ともだちにシェアしよう!