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16話・意気投合

 翌日、約束通り千代田を連れて中庭へと向かう。建物に囲まれた空間は今日も静かだ。その片隅に設置されているベンチに銀縁眼鏡の青年が腰掛け、本を読んでいる。 「伊咲センパイ!」 「獅堂くん、おはよう」 「おはようございます!」  声を掛けると、すぐに読みかけの本を閉じ、笑顔を向けてくれた。交際前は「また来た」と言わんばかりの顔をされていたことを考えると、かなりの進歩である。 「連れてきました。友人(ダチ)の千代田っす」  背を押して伊咲センパイの前に立たせると、千代田はバツが悪そうな顔をして頭を掻いた。 「ども。千代田(ちよだ) 海斗(かいと)です。先日は失礼しました」  千代田の言う『先日の失礼』とは、伊咲センパイに俺の扱いについて直接物申した件である。これがきっかけで恋人同士になれたのだから俺としては嬉しい限りだ。  しかし、伊咲センパイからすれば部外者からいきなり口を挟まれたに過ぎない。俺から噂の真相を聞いた今、出過ぎた真似をしたと千代田は反省していた。 「ううん。千代田くんが言ってくれなかったら僕はずっと踏ん切りがつかなかった。獅堂くんの気持ちに甘えて、なにも変えようとしなかったと思う。だから、ありがとう」  にこりと微笑んでお礼の言葉を述べる伊咲センパイの姿に、千代田は「獅堂をよろしくお願いします」と頭を下げた。オマエは俺のオカンか? 「そうだ。良かったら連絡先交換しない? 千代田くんとも仲良くなりたいな」 「もちろん。獅堂がなんかやらかしたら遠慮なくチクってください。()らしめておきますんで」 「わあ、頼もしい!」  キャッキャしながらスマホを出して連絡先を交換し始めるふたりを見て、俺は疎外感を感じていた。  ちょっと待って。  なんで急にそんな仲良くなってんの?  俺、連絡先交換まで半年かかったんだけど?  気持ちは複雑だが、伊咲センパイが嬉しそうなので水をさすような真似は控えておく。今回千代田に会わせた目的は理解者を作ること。不名誉な噂が事実無根だと知る人が増えれば伊咲センパイの笑顔が増える。それは俺にとっても良いことだ。 「今度メシ行きません? いい店あるんですよ」 「いいの? 行きたい!」 「ちょーっと待ったァア!!」  放っておいたらふたりで遊びに行きそうだったので流石に止めた。 「俺だってまだデートすらしてないのに、なんで千代田とメシ行く約束するんすか!」  抗議すると、伊咲センパイはしゅんと肩を落として眉を下げた。 「だって、獅堂くんの昔の話とか聞きたかったんだもん……」  なにその理由。可愛い。無罪。 「そんなん俺がいくらでも教えますよ!」 「自分に都合が悪い話は伏せるだろ獅堂(おまえ)は」 「聞かれて困るような話なんかねーし!」 「ホントか~? じゃあオレが何を言っても止めるなよ?」 「望むところだ!」  胸ぐらを掴んで言い合いをする俺たちに対し、伊咲センパイは微笑ましそうな眼差しを向けている。いかん、口喧嘩なんて子供(ガキ)っぽかったか。 「ホントに仲が良いんだね。いいなあ」  もしかしたら、気の置けない友人関係というものに憧れがあるのかもしれない。  伊咲センパイは今までひとりで過ごしていたのだ。これからは出来るだけそばにいて寂しい思いをさせないようにしなくては。 「ん?」  不意に、千代田が辺りを見回し始めた。 「どうした」 「いや、シャッター音が聞こえた気がして」 「ふうん?」  ここは建物に三方を囲まれている中庭である。今は秋。ちょうど銀杏(いちょう)の葉が綺麗な色に染まっている。誰かが窓から景色を撮ったのかもしれない。 「じゃあ、僕は講義に行くね」 「また連絡しますんで」 「うん、待ってる」  はにかんだ笑顔を向ける伊咲センパイと離れがたくて抱きしめると「オレがいること忘れんなよ」と千代田が呆れたように肩をすくめた。

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