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26話・何も考えられないように *
本来ならば、そっとしておくべきだと思う。彼が抱えている苦しみは彼だけのもので、当時を知らない俺にはどうすることもできないのだから。でも、ひとりにしておけなかった。
俺以外の男なんかで思考を占めてほしくなんかない、という気持ちが一番大きいのは否めないが。
故に、抱き潰すことにした。
とにかく余計なことを考えられないよう、夢を見る余裕すら無くすほど追い込み、限界まで体力を削り取る。
「あ、またいく、いく……っ」
「いいよ、気持ち良くなって」
「やだ、もうイきたくな……んぅっ」
ここのところ日を空けずにセックスしていたからか、伊咲センパイにイキ癖がついた。密着するように抱き合ったまま奥を突かれると弱いらしい。俺の下で身を捩らせる姿が色っぽくてヤバい。
「っあ~、やべ、俺も出る……」
もちろん伊咲センパイが絶頂を迎えるたびに俺も搾り取られるわけだが、可愛い恋人が気持ち良さそうに喘ぐ姿を見ればすぐに復活した。賢者タイムなんて無粋な単語は俺の辞書にはない。
「伊咲センパイ、もう一回」
「も、無理……休ませて獅堂くん」
「まだ駄目。もっと俺を可愛がって」
素早くゴムを取り替え、拒絶の言葉をキスで封じる。再び股を開かせて挿入した。
「んん……っ」
何度も達して脱力しきった体はいとも容易く俺を受け入れた。もはや伊咲センパイに俺を押し退ける力は残っていない。快楽を逃すためにシーツを掴んでいた手からは力が抜け、枕元に投げ出されている。彼の細い肢体はただ揺さぶられているだけ。
「や、ちょっと」
挿入したまま身を屈め、伊咲センパイの胸元に顔を寄せる。滅多に触らせてくれない胸があらわになっていたからだ。舌を這わせ、時々わざと音を立てて吸う。
「あぁ、そこ、気持ちぃ」
セックスする度に無理やり触るうちに乳首でも感じてくれるようになった。俺が開発した性感帯だ。なにしろ、俺は伊咲センパイの初めての男なのだから。
「し、獅堂くん、だめ」
胸を弄りながら腰を打ちつけ、更に空いている手で伊咲センパイのちんこを握って上下に擦る。先端からとろとろと流れ落ちる先走りが手の滑りを良くしてくれた。
「ひっ、そんな、待って、あっ」
胸と結合部、陰茎へ同時に刺激を与えてやると、面白いくらいあっさりと達した。何度か繰り返すうちに精液は出なくなった。後半はずっと中イキしっぱなしの状態だ。
持参したゴムが尽きた頃、ようやく伊咲センパイは意識を手放した。ほどよい疲労で眠りについたのではなく単なる気絶。
とりあえず本日の目標は無事達成した。ふたりとも全身汗と精液でベタベタの状態だ。伊咲センパイの身体を濡れタオルで拭い、寝間着代わりのスウェットを着せる。汚れたシーツや掛け布団のカバーを取り外し、替えのシーツを敷いてから伊咲センパイの体をベッドに横たえた。
到底安らかとは言えない疲れ切った寝顔を眺めながら、嫉妬と独占欲が満たされた俺は口の端を歪めて笑う。明日の朝、目を覚ました彼に怒られる自分を想像しただけで嬉しくなった。
俺がもっと器用で気遣いができる人間だったらこんな力技みたいな真似をしなくても済んだ。だが、抱き潰すという手段は趣味と実益を兼ね過ぎていて、他に良い方法があったとしても敢えて気付かぬ振りをしたと思う。
伊咲センパイが眠る寝室を後にして、汚れものの後始末を済ませておく。
そして、リビングに置いてある自分のリュックからスマホを取り出した。あの遭遇の後、何度かメールのやり取りをしているのだ。あちらからの返信内容を確認してから返事を打ち込んで送信する。
俺がすべきは伊咲センパイを守ること。
彼が周りを気にせず過ごせるよう支えること。
それ以外は、ぜんぶ些事 だ。
「朝メシの仕込みしたら俺も寝よ」
前回泊まった際に「目が覚めた時に君がいなくて寂しかった」と言われたのがめちゃくちゃ嬉しかったので、今回は添い寝をするつもりだ。腕枕しちゃおうかな。目を覚ました時、彼がどんな反応をするか想像しただけで楽しい。
でも。
もしまた寝言で他の男の名前を口にしたら、寝ていようが気絶していようが構わずもう一度抱き潰してやる。
俺以外のことを考えられないように。
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