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第2話
暗く淀んだ居心地のいいお湯の底に沈んでいるのにそれを邪魔する何かに引っ張りあげられるような感覚。
人の声が聞こえるような気がするけれど内容の理解が出来るほど覚醒はしていない。
「ん…」
鉛のように重い体は容易く動かすことは出来ずその間にも意識が再び沈みだす。
だが沈み始めても何故かまた浮上していく。
『夢…見てる…?』
いつもと若干雰囲気が違う気もするが…夢ならばそれでもいい。
今週は特に仕事が忙しく、睡眠時間と体力を随分と削られ夢を見る余裕すらなかったから。
『でも…どうせ見るならもっと…こう…エロい夢がいいなぁ』
色っぽい話も体験も何も無いがもちろんそういった欲求はそれなりにある。
真は伸ばしていた腕を少し動かしてオーバーサイズのシャツの上から胸の先端を指先で擦った。
「…あ…ぅ…ん…」
実家を離れて暮らするうちに覚えたひとり遊び。
姉との同居生活では自身の手で触れるくらいしか選択肢は無かった。
だが今は違う。
自分の周りの環境が変わったのがきっかけで、真は一人で気持ちよくなる事を模索し始めた。
〈右手が恋人〉は定番だ。
だけど世の中には胸イキ出来る人もいるらしいからそっちも出来ることなら極めてみたい。
だがそれは本人の才能も関係してくるのだろうか。
自分で胸を弄るのは抵抗がある割にさほど気持ちよく無かったし今もアンアン言うほど感じる事は無い…。
でもエロい雰囲気の導入にはちょうどいいかな、と思いやっている。
そうやって先端を擽っているうちに体の奥に熱の灯が揺らめきだした。
ぼんやりとした頭で眠る前にテーブルに置いた物を思い出す。
『昨日のアレ…でイタズラされちゃうシチュ…とか?』
我ながら趣味が悪い。
そう思うのだが誰が人の趣味にケチを付けられようか?
いや、一人でやるんだし性癖はあくまでも本人の自由。
テーブルの上に置きっぱなしにしたアレ…いわゆる大人のオモチャを脳内に思い描くといくぶん呼吸が荒くなった。
『風呂出たら試したかったけど…残業の疲れがしんどくてさすがに試せなかった…から…』
昨日はやってみる前提で普段眠る時には滅多に使用しないエアコンの暖房をつけたままラフなサイズ感のシャツと下着のみという姿で布団に入ったものの睡眠欲には勝てず…結果として枕元に置いたローションと同衾して寝入ってしまった。
十分に眠った気はしなかったがせっかく目覚めたのだから早速試そうと真は立てた両膝を開き、ふぅ…と息を吐いた。
そしてアレが自分のお尻に入る所を想像しながら片足を引き抜いた下着をそのままに頭をもたげ始めたそこに手を添える。
真の中心はもう兆していてその先端は滑りを持っていた。
ぬるぬるした体液を伸ばすようにして右手でそっと扱き、左手は双丘の狭間にある固く閉じた蕾に触れる。
「あ…ローション…」
閉じた蕾を開かせるアイテムを思い出して片手で枕元を探ってみたが確かに昨日はそこにあったのにそれらしき物は手に触れない。
起き出してちゃんと探せばいいのだがこの期に及んでも体を起こしベッドからは出たくない…。
『仕方ない…後ろは脳内シュミレーションで我慢』
ぐっと唇を噛み再び下腹部に手を這わせ、真は頭の中で空想を始めた。
『ローションは冷たいだろうから手のひらにとって体温を移して…それから表面をマッサージするように…』
想像に没頭し始めると呼吸が一段と荒くなり、部屋に誰もいない安心感で声が出てしまう。
「んッ…ふぅ…そこを…優しく…あッ…」
優しく撫でられて、同じ動きを繰り返されて…少しづつ後ろの口が綻んでいくと…待ちに待ったアレが粘膜の内側に侵入してくる。
異物感…よくその一言で表現されるが…真には拒否反応は無かった。
『すっっごく存在感はあるけど…嫌ではないな。すんなり受け入れた自分、グッジョブ』
順調に浅い所を出たり入ったりひとしきり繰り返してからだんだん深い所に侵入してくる。
未だかつて意識したことの無い場所に不思議な感触。
何にも侵された事の無い場所にゆっくりと入り込みゆっくりと抜けていく…。
その動きを目を閉じたままで感覚を体に覚え込ませる。
「あ…あぁ…ン」
時々いたずらに粘膜を引っ掻くように動くのも何だか気持ちいい。
『あ…ヤバい…今までこっちは弄った事無いのに…嫌じゃない…むしろもっと…もうちょっとで凄く気持ちよくなれそう…』
でもあと少し、ほんの少しだけ、ちょっと足りない。
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