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「おー!すげぇな!」
なのに男はそのテストを拾って俺を褒めてくる。
「え?」
「だって、答えは全部合ってんじゃん!」
この男は何を言っているのか?
四十五点だぞ?
見えないのか?
「“=”を書き忘れちゃったんだろ?三たす五十八、最高じゃねぇか!」
笑いながら片手でワシャワシャと髪をかき混ぜられて頭が取れるかと思った。
その手から逃れてテストも奪い返す。
だが、点数を見てまた落ち込んだ。
“=”を書き忘れただけ。
でも、どう頑張ってもそれは四十五点で変わることはない。
「大丈夫だって」
男はまた笑ってこっちを向く。
「いっぱい悩め!で、いっぱい泣け!でも、前だけは見失うなよ!」
そう言って俺の手からまたテストを取り上げて「交換!」と無理矢理男の腕にあった革のブレスレットを押し付けてきた。
「いらない!」
「俺がコレ欲しいんだよ!」
ニッと歯を見せて男はテストを丁寧に折り畳んで学ランの内ポケットに入れてしまう。
「ほら!ガキはさっさと帰れ!早くしねぇと俺みたいな怖いのがどんどん来るぞ」
「えっ!?」
ビビる俺を立たせて男はしっしっと手で払ってきた。
振り返っても男はもう川を見てタバコに火をつけていて、こっちは見ない。
しばらくして、その男がこの辺りのヤンキーを一掃したという伝説を持っていて“小さき百獣の王”と呼ばれているのを知ったが、男はすれ違ってももう目も合わせてくれなかった。
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