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手を伸ばしてきて俺の毛先に触れた獅子谷はクルクルと指に絡ませる。
スルリと解けた髪を見て、獅子谷は笑い出した。
「椎堂、お前はいいとこの坊っちゃんだろ?」
「そうでもねぇよ」
「外資系企業の上役の息子は十分坊っちゃんだっつの。バイトとか金について考えたことなんてねぇだろ?」
「……」
金のことで親父を出されると俺は何も言えない。
あいつの稼ぎで好き勝手自由にしてきたのは確かだ。
「俺なんか安いブリーチだったからかなり傷んでたもんな」
言いながらまた髪を触られる。
何度も梳いて髪に指を絡めるのを横目で見て、俺はただされるがままで居た。
ついさっきまでムカつくとか、どう焦らせてやろうとか……とにかく反発心でいっぱいだったのに。
獅子谷があの“小さき百獣の王”だとわかっただけでそんな気持ちもなくなった。
それどころか、昔頭を雑に撫でてくれたその手が再び俺に触れていると気付いて嬉しいとさえ思う。
「あんたは金で苦労したのか?」
聞いてみたのに獅子谷は答えない。それどころか、
「そんなナリ、親にかなり言われんだろ?」
全く違うことを言ってきた。
「関係ねぇし」
そっぽを向くとフッと笑われる。
「年取って後悔するぞ」
「黒歴史ってか?」
「うっせ!」
ガシッと雑に頭を掴まれて掻き交ぜられたそれがかなり懐かしくて、ただ胸が熱くなった。
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