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「ね!うち今日は夜まで誰も居ないよ?」  ピンク色の唇を近づけてきてバサバサのまつ毛を少し伏せる姿をやけに冷めたまま見つめる。 「今度は二人だけでって前言ってくれたでしょ?」  触れた唇も、やけに甘ったるい香水も……違うと感じるのはさっきまで一緒だった獅子谷のわずかに香るムスクの匂いを思い出したからかもしれない。 「ね、二人だけでゆっくり……シよ?」  一度身体の関係を持つと付き合ってとうるさい女が多い中で、とりあえずヤりたいだけの女は気楽で都合もよかったはずなのに。 「悪ぃな。気分じゃねぇわ」  押し付けてくる胸にから腕を引き抜くと、女は少しびっくりしたような顔をした。 「家にも来ない?」 「は?」 「ご飯食べてゆっくりお風呂でも入ったら気分もアガるかも……よ?」 「凄ぇ自信だな」 「私の口、イイって言ってたでしょ?」  確かにそんなことを言ったような気はする。  むしろ「最低」と言われることの方が多いはずなのに変わった女だ。だから、 「その気になんなかったらヤらねぇぞ」  この女のペースでも悪くないと思ったんだから仕方ない。 「なら頑張らないとね!」  チラッと見せた舌の赤さに少しドキッとした。  そうやってまた腕を組まれて駅へと向かう。  それを獅子谷に見られていたとは思わなかった。

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