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49、第7話「過去」
「ま、あんま話すと俺が怒られるからな」
車の鍵を持って渋谷は話を切り上げた。
「えー」
思わずそのシャツを掴んでしまうと、渋谷はニッと歯を見せる。
「なら、明日も傷見せに来いよ。そうしたら少し雑談もしよう」
微笑むその顔につい舌打ちをしてしまった。
「ははっ、そうやってすぐイラつくのも本当怜旺を見てるみたいだな」
渋谷は笑って俺の毛先をちょいっと動かす。
「は?」
「その髪型とかピアスとかその着崩しも……怜旺の真似?」
「っ!!知ってるのか!?」
その手は払いつつも、この見た目のことを知っているということは……と思わず反応してしまった。
「知ってるも何も……あの髪を切って黒染めした日は俺がついて行ったしね?」
言いながら渋谷は亮雅に肩を貸して歩き始めてしまう。
「それってどういう……」
慌てて追いかけても渋谷は立ち止まらず車の後部座席を開けていた。
「だから、明日またおいで。……な?」
亮雅を乗せてからこっちを見て笑う渋谷。
気を遣ったらしい亮雅は奥に詰めていて、促されて俺も車に乗り込んだ。
「さてと、無事に送り届けないと怜旺がうるさいだろうからな。ちゃんと家を教えろよ?」
渋谷がエンジンをかけると、ちょうど医院から親父さんが出て来て手を振られる。
「あんまヤンチャするんじゃないぞ」
怒られたり、避けられたり、目を逸らされることはしょっちゅうだが、こんな温かく見送られたのは初めてな気がした。
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