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「怜旺たちが小一の夏に実の親父さんが亡くなって、実の母さん、里美 さんは遅い時間まで働きに出るようになったから実はうちでご飯も一緒に食べることが増えたんだ」
やっぱり……思いつつ渋谷の話をただ黙って聞く。
「怜旺は?とか聞かないのか?」
「わかってるなら言えよ」
こっちを覗き込んでくる渋谷に吐き捨てると、渋谷は少し笑った。
「怜旺に聞いてみたら?」
「聞いても何も言わねぇからお前に聞いてんだろーが」
楽しそうな渋谷を睨むと、渋谷は笑いを堪えている。
「怜旺の母さんがこの前親父が言ってた典子さんな。典子さんは未婚の母で一人で怜旺を育てていて、いつも怜旺は「俺も」って俺らについてきてたよ」
「じゃあ、お前らも獅子谷がケンカだの何だのしてた時一緒だったのか?」
「いや」
短く答えて渋谷は白衣のポケットに手を突っ込んだ。
伸ばした足先をただ見つめて一息置いてから口を開く。
「怜旺たちが中学入った時は俺も高二で、補習とかあって時間が合わなくなってな。そのタイミングで里美さんが再婚して出産もして……産後の調子が悪かった里美さん助けるために実も家事とかしてたから、怜旺とは一緒に居なくなってたんだ」
少し唇を噛む渋谷。
環境が変わるなんてよくあることだと思うが、
「一人で居るようになった怜旺に同じ団地のヤンチャな奴らが声を掛けたのはすぐだったな」
その姿はどうしようもなかった現実を悔やむようでもあった。
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