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 団地の奴らに誘われてバイクに乗せてもらううちにどんどん荒れて行ったらしい獅子谷。  見た目も変わっていって、ケンカに明け暮れて……そこが獅子谷の居場所になっていたのだろうか。 「実が俺に助けを求めてきた時にはもう怜旺は目つきも何もかも変わって別人だったよ。俺たちと目が合っても無視だった」  ソファーに座り直した渋谷はただ遠くを見つめる。 「で、この辺りのヤンキーを一掃して“小さき百獣の王”って呼ばれるようになったってことか?」 「だなぁ……」  渋谷はソファーの背に頭を乗せて天井を見上げた。 「仲間が刺されたって担ぎ込んで来たことがあって……それからちょいちょいケガした奴が居るとここに連れては来たけど、中に入らなかったから俺は会ってなかったけどな」  目を閉じた渋谷はそのまま動かない。 「わざわざついて行かねぇ間柄だったんだろ?」 「今でも来ないぞ」  目を開けた渋谷は立ち上がって自販機へと歩いて行った。 「病院なんて用もねぇのに来ねぇだろ」  その背中に向かって鼻で笑うと、渋谷はボタンを押してから口を開く。 「典子さんはのにか?」 「は?」  ガコンと音がしたせいで聞き違えたのだろうか? 「ここの二階に典子さんは居るよ」  俺の前に戻ってきた渋谷はハッキリ口にしてミルクティーとブラックコーヒーの缶を差し出した。

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