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 次の日、単純に寝坊して遅刻した俺は別室でテストになった。 「お前、来るだけは来い!」 「来ただろーが」 「遅ぇんだよ!」  全てのテストを終えてブチブチと文句を言いながらテスト用紙を揃えている獅子谷を俺は座ったままで見つめる。  ファイルに挟んでパッと顔を上げると、黒いサラサラの髪が揺れて直しつつメガネを押し上げた獅子谷。 「あんた、渋谷と仲いいんじゃねぇの?」 「はぁ?」  黙ってはいられなくて聞くと、獅子谷は思いっきり訝しむ顔を向けてきた。  そのままじっと見つめていると、獅子谷は盛大に舌打ちをする。 「お前に関係ねぇだろ」 「都合のいい時しか連絡して来ないって言ってたぞ」 「あの野郎……他には余計なこと言ってねぇだろうな」  目を細めた獅子谷に一瞬言うのはためらった。  でも、今聞かないともう聞けない気もした。 「お前の母親、入……」 「あのクソ医者っ!!患者の情報しゃべるとかどうなってんだよ!」  全てを言う前に遮られて、教卓に拳をぶつける獅子谷をただ見上げる。  とりあえずシャーペンを手にしてクルリと回すと獅子谷はこっちを見た。 「……もーいいから今日は帰れ」  ため息を吐いてダルそうに獅子谷が頭を掻く。 「テストは明日もあるだろうが。明日は遅刻せずせめて一時間目が始まるまでには来いよ」 「ダリぃ」 「来いよ!」  グッと胸倉を掴まれて、その目を間近に見た俺はドキッとしてしまった。

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