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「……よし。ま、いいだろう」
クイッとメガネを上げて言われて、俺はグッと伸びをする。
イスに座ったままキーボードを打ち続けて、体はバキバキだった。
「お前、タイピングする指は綺麗なのにな」
「あ?」
パソコンの電源を切って思わず睨んでしまう。
言われ慣れていない言葉なんて言う獅子谷が悪い。
「これで後は個人懇談会やって夏休みだけどな。羽目外し過ぎんなよ」
「うっせ」
立ち上がって肩を回してからパキパキと指を鳴らすと、獅子谷はフッと笑う。
「まぁ、高校なんてあっという間だからな。後悔だけはすんな」
「……あんたは後悔してんのか?」
「は?」
ファイルを揃えて抱えた獅子谷はピタリと動きを止めた。
そんな獅子谷を目で捕らえたままでいると、獅子谷は面倒くさそうに舌打ちをする。
「そんなんいいからさっさと帰れ」
言いながら獅子谷はパソコン室の出入り口へと歩いて行った。
「人生の先輩として……とかねぇの?」
「お前、そういうの聞きたがるタイプじゃねぇだろ!」
「聞きてぇよ?」
わざと荷物を持ち上げないと、獅子谷は目を細めてパチンと電気を消す。
「いいからさっさと帰れ!」
どうしても自分の高校時代の話はしたくないらしい。
おもしろくなくてさっさと部屋から出る。
そのまま階段を駆け降りて靴を履き替えて外に出ると、門のところに面倒くさい奴を見つけてしまった。
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