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「いいから、どっちだよ?」
腫れた右目を軽く押さえると、獅子谷は深く息を吐き出す。
「ラブホとか…………まぁ、仕方ねぇか」
もう一度脇に来た獅子谷は嫌そうにしながら俺を抱えてライトの点滅を頼りに歩き出した。だが、
「うわ……」
部屋に入った瞬間、獅子谷が思いっきり引いてこっちに信じられないという顔を向けてくる。
「は?」
まだ廊下に居る俺はなぜそんな反応をするのかわからない。
「お前の趣味……」
「は?」
「……ねぇわ」
「何がっ!!」
喚くと、獅子谷は一歩引いて俺が通れるくらいの幅を開けた。
壁を伝って右足だけで部屋の中に入る。
背後でパタンとドアがしまってロックがかかった。
途端にパッと照明が落ちて青いライトが部屋中を包む。
「は?」
部屋の真ん中には大きな二枚貝を開いたような趣味の悪い貝殻のベッド。
天井を見上げれば水の中のような水が揺らめくような演出までされている。
「この部屋はない」
「うるせぇ!ゴリっゴリのSMルームって訳でもねぇのに……ビビってんのか?」
「引いてんだよ」
俺だって……なんて言う訳にもいかず、見えなかったなんてことも言いたくなくてとりあえずベッドに腰掛けた。
右目は腫れて開かないし、何より足が痛い。
「……ま、まだあいつらは追って来てないみたいだし、ここならバレねぇか」
スマホを確認した獅子谷は言いながら室内を物色して冷蔵庫を開いた。
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