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80、第10話「消えた理由」
獅子谷が水を飲む姿を食い入るように見てしまうと、獅子谷は俺にも「飲め」とペットボトルを押し付けてきた。
ちょうど半分ほど減った中身。
その飲み口を見てやたらドキドキした。
さっきまでキスどころかセックスまでしていたのに。
何でこんな初心な反応を?
自分のことなのによくわからない。
「飲まないのかよ」
獅子谷に笑われて勢いをつけてその水を飲む。
咳き込むと、獅子谷はくすくすと笑っていた。
「大丈夫か?」
「余裕」
「ケガは?」
「……ま、大丈夫だろ?」
答えつつ、腫れ上がった右目は開くことができないし、左足はかなりジンジンと痛んで眉を寄せる。
「強がんなよ」
手を引かれて堪えることもできず、俺はベッドに座らされてしまった。
「うーん……骨は大丈夫そうだけど足も顔もかなり腫れてるよな。順に診てもらうか?」
「ヤダ」
四つん這いで近づいてきた獅子谷に即答する。
「病院ビビんなよ」
「ビビってねぇし!」
笑われて否定すると、獅子谷はするりと俺の左足を撫でた。
「もう……こんなケガはするなよ」
何か別のものに話しているような口ぶりにどことなく違和感を感じる。
「あんたに関係ねぇだろ」
「周りが悲しむんだよ」
その手から足を抜くと、獅子谷はふいっとどこか遠くを見た。
「あ?周り?」
聞いても反応はない。
「あんたがいつもケンカを止めんのと関係あんのか?」
「……俺と同じ後悔はさせたくないだけだ」
零された言葉はヒドく悲しげだった。
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