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「後悔?」  聞くと、獅子谷はこっちを見て眉を寄せながら何とも言えない顔を向けてくる。  泣きそうにも見えるそんな顔は今まで一度も見たことはなかった。 「……母さんが何で入院してるかは……聞いたか?」  首を横に振ると、獅子谷は布団を手繰り寄せて立てた膝に乗せてギュッと握る。 「母さんは……」  言いかけてギリッと奥歯を噛み締めた獅子谷。  グッと全身強張らせていたが、フッと力を抜いてから時間をかけて息を吐き出した。 「……俺のせいでバイクに轢かれて今も意識不明だ」 「は?」 「もう……十年、か……ずっとただ眠ってる」  膝に顎を乗せて視線を漂わせる。  その目は何を映しているのか?  俺にはわからない。 「じゃあ、十年前に急に消えたのって……」 「俺自身がケガするのも死ぬのも勝手だよ。でも……周りは……な」  縮こまるように小さくなっている獅子谷の肩に手を伸ばす。  触れると獅子谷はこっちを見て俺の手に触れてきた。   「だから……お前も取り返しがつかなくなる前にやめろ」  ゆっくり関節をなぞっていくつかある古傷に唇を寄せてくる。 「ウリやってんのはそれと関係あんのか?」 「……」  獅子谷は俺の手から唇を離してピタリと動きを止めた。 「俺もケンカしねぇからあんたもウリ辞めろってのは無理なのかよ?」 「一緒にするな」  俺の手も離して獅子谷はまた自分の膝を持って縮こまる。 「何で?」 「お前には関係ない」 「なら俺がケンカして後悔することになってもあんたには関係ないだろ!」  膝に顔を埋めていた獅子谷を無理矢理起こした。

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