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「入院費が要るなら俺が出すぞ」 「何言って……そんなお前のでもない親の金……」  鼻で笑って聞く気もなさそうな獅子谷の顎を掴んでその口を塞いだ。  無反応の獅子谷は舌で突付いてもただ口を閉じている。  俺はゆっくり離れると、ベッドから降りてベッドの下に落ちているスラックスからスマホを取り出した。 「ほら……金ならあるし。これは俺の金だよ」  スマホを操作して画面を見せると、獅子谷はピクリと眉を跳ねさせる。 「いや、お前まだ十八歳未満だろ?口座開設は……」 「だから、未成年口座。名義は母親な?」 「は?」  画面を閉じても、獅子谷はポカンと口を開けて固まっていた。 「この半額は親に返すことになってる。でも、半額は来年は自分の口座で本格的にやる予定だよ」 「お前……」  小学生の頃から父親に教え込まれてきたFX。  それで親から渡されていた元金は今は軽く十倍にはなっている。 「ウリは辞めろ」 「何で」 「ムカつくから」 「……は?」  さっきからおかしい理由はもうこれしか考えられないから。  理解できていない顔をしている獅子谷の前に座ってしっかりその顔を見つめた。 「俺以外の男に抱かれたりすんな!」 「いや……何言ってんだよ」  顔を背けて逃げようとする獅子谷の両手首を掴んで顔も近づける。 「好きなんだよ!…………たぶん」 「たぶんって」  鼻で笑った獅子谷の口を塞いだ。  こんな余裕のない必死なキスは初めてかもしれない。

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