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「違わねぇよ。妊娠もしねぇし、具合もよかっただけだろ?“憧れだった俺が目の前に現れて手に入れたくなった”そんだけだ」
まるで信じない獅子谷は鋭い視線をこっちに向けてくる。
「……わかった。もうケンカもしねぇ!女も別に要らねぇよ!ケンカはあんたに憧れて近づきたくて、何でも相手してただけだし……女だって適当な時間潰しだったからな」
「へぇ」
まるで無理だとでも言いたげな表情に焦れつつ、獅子谷の前で正座をした。
「信じるまで何度だって言う!ただ……あんたも約束してくれ!ウリはやるな!」
だが、獅子谷は俺の目を見返して、逸らす。
「何でだよ!」
「……前連れてったあの事務所は“ピンクキャット”の実質の店舗だ」
「は?」
「経営は他の奴がやってるけどな。俺もキャストであり元オーナーなんだよ」
「はぁ?んなもん辞めれんだろ!」
経営とかそんなのは聞きたい訳じゃない。
俺が聞きたいのは“もうやらない”そんな俺以外の男は受け入れない言葉だ。
「……実のこと、順から聞いてんだろ?」
開いた獅子谷の口から出て来た言葉で俺は動きを止めた。
「幼なじみ、その一?」
「そうだな。実とは物心つく前から一緒だったからな」
少し表情が緩んだようなその顔を見て何か落ち着かない。
「そいつがオーナーか?」
「ん?実が?笑わせんな!あんなガッチガチのクソ真面目野郎にんなことできる訳ねぇだろ?」
ならそいつが好きなのか?
それは口には出せなかった。
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