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顔を真っ赤にした獅子谷。
思わず手を伸ばすと、獅子谷は慌てたように後ずさる。そして、
「かっ、帰れっ!!」
喚いてむしろ、ガタガタと机にぶつかりながら教室を飛び出して行った。
「いや、自分が居なくなってるし……」
そんな姿さえかわいく思えてしまって、壁に凭れ掛かってため息を吐く。
怒った獅子谷。驚いた獅子谷。キスをすると少しトロンとしてしまう獅子谷。それを何でもないように装う獅子谷。
そして、さっきの真っ赤になった獅子谷。
「ヤーベぇ……ガチだ」
好きが溢れて止まらない。
今、居なくなったのにもう会いたくて仕方なくて、あの声が聞きたいと思ってしまう。
こんなのやっぱり“憧れ”なんかじゃない。
自分でも驚くほどガチ恋で、こんなに誰かを好きなのは初めてだ。
「あー……好きだ」
呟いたって誰も聞いてはいない。
それでも口に出しておきたかった。
ズルズルとしゃがみ込んで膝に額をつける。
脳裏に浮かぶさまざまな獅子谷を想って、俺はその残り香にただ包まれていた。
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