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 遅刻してきて何となく教室ではなくパソコン室に向かうと、そこに獅子谷の姿を見つけた。 「なぁ」  ドアを開けても獅子谷は無反応。  手は止まらなくてカタカタとキーボードを打つ音だけが響く。  無視か、と思いつつ中に入って行くと、しばらくして獅子谷がタンッとエンターキーを押して手を止めた。 「遅刻したらまず職員室に来いと何度も言ってないか?」  メガネを上げて睨んでくる目。 「職員室にはあんたは居なかったんだろ?ここで会えてんだからいいじゃねぇか!」  笑うと、獅子谷はため息を吐いた。 「俺じゃなくて……」 「あんたに会いたかったんだよ」  歩いて行って獅子谷の前に立つと、 「はぁ?」  素直に言っているのにまた呆れたような顔をされる。 「だから……」 「ガチだっつの!」  屈んで目線を合わせても、獅子谷はたじろぐこともなくこっちを見返してきた。 「なら、朝も遅刻せず来い」 「は?」  そう返されるとは思わず片眉を上げる。 「朝一は絶対に教室に居るだろ?」 「あんたと二人きりじゃねぇじゃん」 「あ?」  今度は獅子谷が眉を跳ねさせた。  その顔に更に近づいてキスしようとすると、バチンと顔面を叩かれる。 「って……」 「盛んな!クソガキ!」  立ち上がると、獅子谷は荷物を胸に抱えた。 「なぁ」 「さっさと教室に行け!」  もっとこいつと居たいのに獅子谷は見向きもしてくれない。 「何しょぼくれてやがる」 「キスくらいいいじゃねぇか」 「バーカ」  電気は消されたが、獅子谷が笑ったのはよしとした。

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