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俺の個人懇談は終業式の前日で、わざわざ予定を調整して行ったらしい親父はなぜか上機嫌だった。
髪を切って、ケンカもタバコも止めて、勉強を始めて、資格も取り始めた俺。
親父たちはそれを見て更生したと思ったらしい。
まぁ、まだ金髪だしピアスをやめていないことはグチグチ言われたが。
懇談会がある三日間は獅子谷に勉強を見てもらうわけにもいかず、終業式の後も忙しいと軽く追い払われた俺は久々に亮雅たちと過ごしていた。
ファミレスに入ったり、ボーリングしたり、バッティングセンターに行ったり、ゲームをしたり……。
「今更青春でも満喫するつもりかよ」
亮雅には呆れたように言われたが、俺はこういうのも新鮮でちょっと楽しい気がしていた。
ふと目が合った黒猫。
クレームゲームの透明の板の向こうに居るツンとしたまま座っているぬいぐるみだった。
その姿が獅子谷とカブって目を奪われる。
「女の子は呼ばねぇの?」
期待したのと違った感を出してくる祐生も無視した。
どんどん百円玉は吸い込まれるのに惜しい感じにもならないそれにイラッとする。
でも、引けなくなった。
「そんな黒猫……要らねぇだろ」
「うるせぇ」
「重心考えろ。そんなんで動くわけねぇだろ」
「あ?重心?」
面倒くさそうな亮雅を取っ捕まえる。
祐生に千円を渡して崩してもらいつつ、亮雅に狙いを聞いた。
「貸せ。俺がやった方が早い」
「いや!これは俺がやるんだよ!」
色々聞いてもそこだけは譲れない。
この黒猫は俺がモノにする!
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