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「渋谷も滝本もいつも来ないって言ってたけど……あんたは毎年行ってたんだろ?」
その背中がやたら淋しげに見えて後ろから抱き締める。
「うっせぇ」
否定しないのは肯定と一緒だと思うのだが、振り解くこともないのでそれは黙っておいた。
そっと抱き締めてその首筋にキスをする。
「毎年見てたなら……わかってるだろ?滝本があの事故でただ不幸になったわけじゃないって」
「そんなの!」
「俺よりあの笑顔見守ってきたんだろ?」
俺の腕の中で体の向きを変えた獅子谷の言葉を遮ってゆっくり語りかけた。
「ちゃんと前を向いてるよ。あの人は過去に縛られていつまでも悲観してない」
「お前に何がわかる!」
歪むその顔。
「あぁ。だから、俺より付き合いの長いあんたならわかるんじゃないのか?」
背けようとするのを捕まえはせず、じっと見つめる。
「あの短時間でも滝本はあんたを待ってたし、ただ会いたがってたぞ」
こっちは見ないくせに腕の中からは逃げない
獅子谷の背を何度も撫でた。
「……うるせぇ」
俺の胸に額をつけて絞り出される声。
「あの人はあんたを責めてなんかねぇよ。あんたがまだ罪の意識に苛まれて苦しんでる方が気にするだろ?……本当はわかってるんだろ?」
僅かに震えるその体を抱いたまま頭を撫でると、獅子谷は大人しく腕の中に居た。
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