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 腕にあるあの革のブレスレットに触れる。  獅子谷に見えるように腕を少し上げてそこにキスをすると、獅子谷はフィッとそっぽを向いた。  笑いを堪えていると、獅子谷はそろりと視線を戻してきてムッと口を引き結ぶ。 「ヤベ、かーわいっ!」  口笛でも吹いて弾んでしまいたかった。  こんなグラウンドの真ん中でそんなことをしたら冷静になった時に憤死ものなんだが。 「あの……」  かなり躊躇いながら声を掛けられて顔を上げる。  ビクッとして明らかに顔を引き攣らせた男は言いにくそうにモニョモニョと何かを言った。 「は?聞こえねぇ?」  だが、次の二年女子が走っていて、こんなうるさい中で聞こえるわけがない。 「すみません。えっと……ハチマキ、は……どちらでしょう?」 「は?ハチマキ?」 「クラスカラーのハチマキが各クラスあるはずなんですが……」  ビクつく男の頭にも左右の男の頭や首元にも確かに赤や青のハチマキが巻かれている。 「おいっ!ハチマキっつってるけど……」  目の前のクラス控え席に叫びかけて止まった。  あいつらの頭や首にあるのはピンクのハチマキ。ということは…… 「あぁ」  聞こえてしまったらしい獅子谷がキョロキョロと左右を確認してから走って来た。 「ん、俺の巻いてやるよ」 「ヤダ」 「なら首に蝶結びしてやろうか?」  そんな軽く微笑んでいるくせに腹に密かに拳めり込ませてドス効かせられたら……従うしかない。

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