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 散々嫌がったが俺も引かなかった。  俺だって嫌だったのに走ったんだ。  しかも、結果も出した。  それなりの見返りは欲しい。  教えられた駅に着いて上がってしまう口角を何とか堪えようと顔に手をやる。すると、 「……何してんだ?」  後ろから獅子谷に声を掛けられて振り返った。  俺の上機嫌とは正反対で明らかに仏頂面の獅子谷。  いつものスーツでもメガネでもないゆったりとしたパーカー姿でこっちはドキドキしてるのに。 「愛しの恋人に会えた顔じゃなくね?」 「何が愛しのだ」  どうしたって甘くする気はないらしい。 「腕組む?」 「組むか」  伸ばした手だってパシッと叩かれる。 「じゃあ、食材適当に買ってきたから一緒に作るか?」  買ってきたカバンの中を見せると、獅子谷はフイッと顔を背けた。 「俺は料理なんてできねぇよ」 「一人暮らしなのに?」 「作らなくても生きていける。むしろ、お前が料理する方がびっくりだわ」  足元の小石を蹴ってからこっちを見た獅子谷に微笑む。 「親父がパーティだの何だの行く時は母親も一緒だからな。キッチンは比較的自由に使えたんだよ」  答えても獅子谷はもう足元に目を落としていた。 「……本気で来る気か?」 「もちろんっ!」  声を弾ませると、獅子谷は足を止めてこっちを見上げる。 「何もないぞ」 「何か置いとけなんて言ってねぇだろ?」 「古いぞ」 「だから何だよ?」 「狭いぞ」  まだ続きそうで俺はその口に人差し指を押し当てた。 「あんたが住んでるとこに行きたいだけだっつの!どんなとこでもいいんだよ!」

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