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「……」
「思いっきり引いてんじゃねぇか」
アパートの前で言葉を失った俺を見て獅子谷がフッと笑う。
どう見たって人が住んでいるとは思えない朽ち果てたアパート。
看板はあるが『荘』の文字が辛うじて読めるくらいでその前にあるのは何かもわからない。
「あれ?レオくん、お客かィ?珍しいなァ」
どこに目があるのかもわからないくらい髪もヒゲも伸びたじじいが足を引きずって歩いて行く。
「……ガチか」
呟くと、獅子谷が笑った。
「だから、言っただろ?ほら、やめてどこ行く?」
「っ……だから、あんたん家だろ!!」
その腕を掴んで止めると、獅子谷はため息を吐く。
「お前みたいなあんなデッカい綺麗な家で育った坊っちゃんには衝撃過ぎるっつの!やめとけ」
「嫌だ」
ただ意地を張っているだけじゃない。
本当に獅子谷がここに住んでいるのならこの目で見てみたかった。
俺が引かないことをやっと理解したのか、ガシガシと頭を掻いた獅子谷はこっちを横目で見てまたため息を吐く。そして、
「……こっちだ」
錆だらけで穴もあちこちある、それこそ男二人が乗ったら崩れ落ちそうな階段を上り始めた。
「渋谷んとこの近くの市営住宅じゃねぇんだな」
「あそこは一定収入あると住んでいられねぇんだよ。こう見えても公務員なんでな」
その背中に聞いてみると、振り返りもせず答えられる。
その給料はもう戻ってきたんだからちゃんとしたところに住め、と言ったら言うことを聞くのだろうか?
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