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「窓の外って……あれ何?」
どう見たって昼間の空には見えなくて聞くと、
「あー、裏のビル」
俺の胸にくっついて脱力したまま獅子谷はゆっくり目を閉じる。
獅子谷を抱いたままぐるりと見渡してみても南は玄関、北にある窓はすぐにビル、東は押し入れで、西はただの壁と簡易キッチン。
「で、トイレもフロもなし?」
「トイレは外」
聞いてみると、獅子谷は目を閉じたまま答えてスリスリと俺の胸に擦り寄った。
「いや、不便だろ。引っ越さねぇの?」
「んー……そのうちな」
思った通りの気のない返事。
「それ、そうやってダラダラ過ぎてくやつじゃねぇか!」
「何だよ、引っ越して欲しいのか?」
パッと目を開けてこっちの反応を窺うように見てくる。
「そりゃこんなセキュリティガバガバなんて心配だろ!」
「そこかよ!」
「重要なことだろ」
真剣に言っているのに獅子谷はフッと笑いを溢した。
「にしても……包丁もねぇの?」
ズルズルと落ちていって獅子谷はあぐらの俺の太腿に頭を乗せたような状態になる。
「ねぇな。必要ねぇし」
さっきから顔を押し付けてくるのは誘っているのだろうか?
「いや、必要だろ」
「使えねぇもん要らねぇだろ?」
サラサラの髪を撫でると、獅子谷は気持ち良さげに目を閉じる。
「どんだけ家事スキル終わってんだよ」
その顎を捕らえてこっちを見させると、獅子谷はふわりと笑った。
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